第16話 儀式
彼女を落ち着かせるため、とりあえず『タクヤ結婚相談所』に招き入れ、そしてユナがミルクティーを入れてくれた。
ちなみに、女性客のために事前に茶葉を買っておいてくれたのもユナ。
意外とこういう細かい気配りができる彼女、本当に助手として優秀だ……ただ、興味本位が過ぎるところかちょっとマイナスポイントだが。
ミウの格好だが、貴族の乗馬用の正装、といった感じで、白いズボンに茶色のスーツのような上着。普段練習に使っているものを急いで着て、自分の愛馬に乗って走って来たのだという。
自分専用の愛馬がいるということは……やはり、かなり大きな家の令嬢、ということになる。
両親の許可なんか得ずに飛び出して来たということで……なんか、あの母親の怒る姿が目に見えるようだった。
しかし、そんな事よりも気になったのは、ユアンという名の青年が殺されてしまう、という彼女の言葉だった。
ミルクティーを飲んで落ち着いたところで、もう少し詳しく話して欲しいと尋ねると、彼女は状況を整理するように、言葉を紡ぎ始めた。
「今回の占いの結果、私は父に話しました……すると父は、腕を組んでしばらく考えた後、母とユアンを呼びました」
「えっと……お母さんは、お父さんに話をしなかったのかい?」
刺激しないようになるべくフレンドリーに、確かめておかなければならないことを聞いてみる。
「はい……母は、余計な事は言わなくていい、と言っていたんですけど、どうしても聞いてもらいたくて……」
「なるほど……それで、どうなったんだい?」
「はい、父は……お前はどう思っているんだ、って聞いてきて、それで、私は占いが本当ならば、運命に従いますって言いました……」
「……えっと、それじゃあ……やっぱりミウちゃん、そのユアンの事、好きなんだ……」
ユナの、興味本位のストレートな質問に、俺はちょっとドギマギしたが、ミウはコクン、と一回だけ頷き、それだけで彼女が真剣な様子が伝わってきた。
「……それで、お父さんとお母さん、それにユアンの様子は……」
ユナ、何の遠慮もなくずかずかと聞いている。うーん、この聞き方が良いのか悪いのか、男性である俺にはよく分からない。
「母は、驚いて両手を口に当てていました……父は、眉一つ動かさず、そしてユアンは、相当慌てていました」
「……えっと、ユアンと貴方は、どういう仲だったの?」
「彼は、私が物心ついた頃にはこの屋敷に住み込みで働いていて……詳しい話は知らないのですが、六歳ぐらいでこの屋敷に引き取られ、掃除とかの下働きをしていたということです。それで、歳が二歳しか離れていない事もあって仲は良かったのですが……ずっと私の事は、『ミウ様』って呼んでて……」
「……つまり、お嬢様と召使いっていう関係だったってことね……」
「はい……でも、今回、父はユアンに対して、『婿入りして、この家と娘を守っていくつもりはあるか』って聞いて……母も、私もすごくビックリしたんですけど、ユアンは『はい、お願いします』って、深く頭を下げてくれて……」
「うわあ……」
なぜかユナが顔を赤らめて、喜んでいる。
「それで、本当に急になんですけど、エンボス家に伝わる伝統の儀式を執り行うことになって……領地内にある山の一つ、『聖域』って呼ばれている場所なんですが、そこにある四つの
……なんか、どっかで聞いた事のあるような話だな……。
「……精霊との契約って、どういうものなの?」
魔法が使えるユナが、そこに興味を持ったようだ。
「いえ、私もよく知らないのですが、ほとんど形式的なものだと思います」
「……だったら、大丈夫なんじゃないかしら? なぜそんなに急ぐのか、気になるところだけど」
「えっと、それは、父は凄く忙しくて、長期の出張から帰ってきたばかりなのですが、また数日で出張にいかなければならなくて……その前に、ユアンを試してみよう、という風に考えているんだと思います」
「なるほどな……それて、その儀式を無事終えたら、どうなるんだい?」
「本来、これはエンボス家の男子が成人と認められるかどうかの試験なんです。十八歳になったら受ける事になっていて……つまり、一人前と認められるための通過儀礼です。婿入りする者も、この儀式は受けておく必要があって……つまり、その準備の一つということです」
「それじゃあ、無事儀式が終わって、すぐ、婿入りが決まるっていう訳でもないんだな……」
「はい、必要条件の一つにすぎません。聖域内は、戦闘能力のほとんどない低レベルの妖魔しか出現しませんし、本来そんなに危険なものでもないはずなのですが……だから、すぐに儀式に出発する話になって、彼、軽装で、練習用の木剣しか渡されなくて……あと、簡単な地図だけ渡されて、出発してしまったんです……」
「出発?……本当に急だな……でも、話を聞く限り、そんなに危険だとは思えないんだけど……」
「でも、私、聞いてしまったんです……父が、納得していない母を自分の書斎に呼んで……こっそり廊下でドアの隙間から聞き耳を立てていたんですけど……『中級のハンター三人に、襲わせる』って……」
さすがにその言葉には、ユナも俺も驚いて顔を見合わせた。
「えっと……ユアンって、剣の腕は確かなの?」
「……私、剣については詳しくないんですが、ある程度、訓練を受けていたはずです。でも、中級のハンター三人に、練習用の木剣で戦えるとは思いません……」
また彼女の表情が、悲痛なものに変化した。
「それって、中止できないのか?」
つい、俺も声を荒げてしまう。
「……私も、書斎に飛び込んで、今すぐ止めてって言ったんですけど、『そういう試練を乗り越えてこそ、エンボス家の婿にふさわしい』って言われて……それで、屋敷を飛び出して来たのです……」
「……その『儀式』って、もう始まってるのよね?」
「はい、でも、舞台となる山地はかなり広くて、四つのほこら全て回るのには、徹夜で歩いたとしても丸一日近くかかるっていう話です。始まったのが今日の午前中、今夕刻で……『聖地』まで馬車で四時間程度。ハンターは最後の神殿へ続く道で待ち伏せると言うことでしたから、なんとか間に合うかと……」
「馬車で四時間? そんなに遠いのか……っていうか、そんな距離を馬で、一人で走って来たのか……」
俺は、ミウの意外な行動力にまた驚いてしまった。
「それで、私が助けに行くとして……最後の『神殿』の場所、ミウちゃん、知ってるの?」
「……いいえ、聖地には入ったことなくて……」
うつむいてしまうミウ。
「それは……困ったわね……タク、なにか彼を捜す良い案、ないかしら……」
「何言ってるんだ、ユナ。俺の能力、忘れたのか?」
「……あっ、そっか!」
ユナは、納得したように手を叩いた。
俺の目には、ミウとユアンを結ぶ『
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