ボッチ、お嬢様から御誘いされる

よっしゃ~......これからこいつが俺の相棒なんだな


 新たに購入した白銀に煌めく長剣を眺めながら、そう頬を緩める駿に向かって、ジャックは「良かったですね!」と笑顔を浮かべる。


 駿はあの後三本目の剣候補を見つけたが、結局ユカに欠点を突きつけられ二本目に選んだ長剣を購入したところだった。


「ありがとよジャック。にしてもルリアさんと別れて大丈夫だったのか? 一緒に来たんだろ?」


 そう駿が聞くとジャックは何故か苦笑した。


「えーっと......その......ね、姉様の買い物はいつも長いので......」


「あぁ~! そういうこと! 分かるよーその気持ち! 女の人っていつも買い物長いよな~......終いには荷物もてとか言われるし!」


よく母さんと二人の妹の買い物に付き合わされたな~......あの時は奴隷かと思うほど使われて......帰りの電車とか隣で和気藹々と話してるのに俺だけ疲れて寝てたわ。嘘のように足が棒になってさ~......もう行きたくないわ。元気にしとるかな~......


 と、神妙な顔でうんうんと頷き、ジャックの肩に手を乗せて、こう言った。


「ジャック。そういえば俺ってさ......姉いなかったわ」


「え? あ、え......は、はい。そうでしたか......」


「で、どうなんだ......姉というのものは」


「......? あの......いってる意味がよく分かりません......」


「いやぁ......その......甘えさせてくれるのだろうか? 膝枕とか......してくれるのだろうかっ!」


「えっ......い、いえそんなことは......」


「そう、なのか......姉属性というものは......ない、のか......」


ルリアさんみたいな美人な姉が居て良いよな~......ジャックは本当に恵まれてる。俺が弟だったら絶対に膝枕おねだりするわ


「あの......大丈夫ですか? 先生」


 先程からの言動に少し心配になるジャックは困惑した顔で駿の顔を覗く。


「何言ってんだジャック。俺は至って普通だぜ?」


「それでですか!?」


「ん? どしたジャック。俺は普通だぞ」


「いやさっき膝枕とか言ってましたよね!? しかも姉様に!」


「......ジャック知ってるか?」


「何です?」


「童貞は進化し続けるんだぜ?」


「......」


「......そこで黙るジャックはもう卒業生なんだな」


「ち、違いますよ! 無視をしたんです!」


「その年で知ってるとは......ジャックもやるよのぉ......」


 と、しめしめと不敵な笑みを浮かべた駿に向かってため息を着いた。


「この国では十三才から結婚でき、僕は貴族なので政略結婚なるものがありまして......だから早めにそういう知識を......じゃなくて何言わせるんですか!」


「おーっとすまんすまん。てか言わせた覚えがないわ。......そうかなるほど......十三才で......ちゃんと責任とるんだぞ?」


「まだですからね!?」


「そういえば伽凛さん達は何処だろうか......」


「無視しましたね? 先生今明らかに無視しましたよね!?」


 ジャックの言った通りに無視をして、そう周囲に視線を向けるも集合場所に近いところまで来てないので見知った顔は居なかった。


 代わりに様々な格好をした冒険者達が真剣な表情で得物をじっくりと見定めている。


 全身甲冑姿の騎士や、豪快にその筋肉質な上腕まではだけさせた装備をした武道家らしい人や、弓を背中に装備している女性冒険者等だ。


「やっぱり女性も戦うんだな......」


よくラノベで女の子が超強い設定あるけど......縦横無尽に駆け巡って蹴散らしてく女の子なんてにわかには信じがたいわ......あ、てかさ......師匠いるやんっ! 超強い女の子といえばアリシアさんじゃん! ......あの人普通にしてたら伽凛さんには負けるけどマジで可愛いんだけどな......戦闘となると本当に狂戦士(バーサーカー)になっちゃうからなぁ~......惜しいところだ


「何言ってるんですか? 当たり前ですよ」


この世界ではな? もとの世界にも女性の軍人が居たがほとんどの国が徴兵じゃなくて志願の形をとってた気がする......この世界のように多くの人が戦うことを望んでないと思う


「......あぁ、そうだな」


でもジャック程の子供でも女性が戦うことを当然と知覚してる以上、ここでなんやかんやいっても仕方がないな


 駿は返事をした後、笑顔で頷き返すジャックと共に決めていた集合場所へと足を運ぶのだった。


= = = = = =



「よっ! 駿」


「よっす! 優真。お......盾と片手剣か......タンクにでもなってくれるのか? ヘイト集めよろしくぅ!」


 集合場所である店の入り口へと着くと、そこには買い終わったのか優真の姿があった。


 背中には直径60㎝程の丸い形状の盾を背負っており、腰には通常よりもやや長い銀の片手剣を差している。


 顔はどこか満足げな表情を浮かべており、直ぐにでも試したいという心情が容易く伝わってきた。


「おう。パラディンだしな。ヘイト管理は任せとけ。そういうお前は長剣一本、攻撃重視ということは......俺が受けてお前がその隙に叩く......まさに理想的だな」


「だな! それにこの剣、中々の上物らしいから良い鋭さのはずだ。ばっさばっさ切り捨てて行くぜ?」


「ほう......ということはそれを使って無双する気満々ってことか。そうはさせるか。俺だって受けだけじゃない。攻めることだって出来るんだ。討伐数でひけをとるつもりはないぞ?」


「なるほど......つまり、お前は受けも責めも出来るということか......なんてオールマイティーなんだ......」


「おい」


「......にしてもお前はすげえよ。学校の授業で座ってる時お前痔が痛くてしょうがなかったろ? よく我慢出k「ちがあぁうっ!?」え?」


「俺はそんな趣味じゃねぇよっ!」


「へ......?」


「いやお前さ......アッチの方の受けも責めも出来るって言ってるんじゃなくてっ、俺は防御も攻撃も出来るという意味をもって言ったわけ! 話の流れでそんぐらい察っすること出来るでしょ!? いや察してくれませんか!?」


「あっそうなの? ごめんてっきりアレの方かと......」


「なに『アレ』って......ざけんなっ。お前はバカか? バカなのか? それともアホなのか?」


「優真......人間って言うのは多少のバカさやアホさがないとユーモアが持てなくなってしまうんだぞ? だから俺は今当然のことを悪口として言われてることに困惑しているのだが......」


「あのね? 良いですか? お前の言い分は確かに分かるが......限度というものがあってだな。さっきのお前の言動はその限度を遥かに、いや海溝の奥深くに、いやマントルを通り越してコアに行くぐらいに通り越してるんだ」


「いやそれはちょっと通り越し過ぎじゃないですか?」


「だから限度を越えすぎたお前の言動に向かってバカやアホと言ったんだ。もう一度言う。お前はバカか!」


「いや、そこはせめてうつけ者と......」


「はいはい。織田信長の少年時代のあだ名を出すのはよそうか。てか全く意味も一緒だ。変わってない」


「じゃあ駿と......」


「つまり、お前は名詞である『駿』を、形容詞である『馬鹿』と同じ意味にしろと言いたいんだな? 分かった。お前やっぱり『駿(バカ)』だな」


「当たり前じゃん。優真、お前は『駿(バカ)』か」


「いや、俺は優真なんだけど......あ、やっぱり『駿(バカ)』なんですね」


「だからそうと言ってるんだけど? お前『駿(バカ)』だな」


「いやだから断言されても俺は優真なんだけど......」


「......」


「......」


「......無限ループじゃねえか。だれだこれ始めたの」


「おめぇだよっ!」


「───近藤君、浅野君。お待たせ~」


 そんな調子で話していると通路の奥から呼び掛けられ、振り向けばこちらに歩いてくる夕香達三人組と伽凛、そしてルリアの五人の姿があった。


「お......誰だあの青髪の美少女は」 


「ん? そういえばお前居なかったな」


「どこかの令嬢さんか?」


「あぁ。この国を主に支えている五貴族っていう特に偉い貴族達の中のボルズ公爵家という貴族の娘さんがあのルリアさんっていう女の子」


「えっ......ヤバくね......」


「改めて見るとな」


だけどあの子が俺を助けてくれたんだよな......ちゃんとお礼を言っとこう


「ふぅ~......選ぶのに時間かかったよ~」


 夕香がそうげんなりというと駿はユカがいて助かったなと思い苦笑いをした。


「お疲れ様」


 罪悪感があるのか、思わず労いの言葉をかける。


「近藤君の長い剣だね~......振るの大変そう」


「そうか? 慣れれば大したことないぞ?」


「えぇ......本当?」


「夕香。経験者は語る、だよ?」


「そうそう。私だって最初は槍なんて扱えなかったけど、使い慣れた今じゃ結構様になってるんだよ~?」


 夕香の言葉に三波と希が駿をフォローする。


「そんなもんかな?」


「そんなもんだ」


 駿が即答すると、自然と笑いが込み上げてきた駿達はそれぞれ笑みを浮かべる。


「互いに良い仲間に出会えましたね」


 そんな様子を微笑ましく見ていたルリアから、そんな言葉が発せられた。


「あっ......ルリアさん。すみません挨拶もなしに......」


 駿はすっかりに会話に夢中で忘れていたことを謝ると、ルリアは「いえいえ......お元気そうで何よりです。コンドウ様」と微笑んだ。


「あの時は......その......ありがとうございました。ルリアさんが居なければどうなっていたことか......」


「私もあの時コンドウ様が来てくださらなかったらメイド達諸とも男達にどうされていたことか......本当に感謝しています」


「......ふっ」


「......ふふっ」


 互いに腰を折っている光景に、駿とルリア共々可笑しく思い笑ってしまう。


「何かお礼をしたいですが......」


「あら、私こそ何かお礼をさせていただきたいのですが......」


 互いの顔を真っ直ぐと見つめながらそう言い合い、「......楽しみにしておいて下さい」とまた二人して言った。


「......さてジャック。はぐれては駄目でしょう?」


「ご、ごめんなさい姉様」


「実は気づいた瞬間から杖を早急に選んでその後小一時間探し回ったのですよ? 普通の子供でもともかく、貴方はボルズ家の子息なんですから狙われる可能性が一段と高いのは分かってます? 護衛が付いてないのは杖を持った私が居るからです。まだあなたには力がありません。そしてそれを守るのが私の今日の使命です。そこも承知の上であなたは私から離れたのですか?」


 そう咎めるルリアをみて、俺もほしいなぁと羨ましく思う駿はジャックが何故ルリアから離れたのか理由を知っているため、少しここは助けてやろうと助け舟をだした。


女の子の買い物は長いから......ジャックは暇して離れたんだよな。うんうん俺も共感できる......まぁ女の子が悪い訳じゃないけど。長い割にどうでも良いものを買うときがあるからなぁ......母も妹もそうだった。まぁルリアさんの場合はそんなこと無さそうだけども......


「すみませんルリアさん。最初は俺が見つけたのですが、剣を熱心に見るもんですから俺もその気持ちを共感できたし一緒に見て回ってたんです。直ぐに送るべきでしたね......」


 そう謝る駿に、ルリアさんは少し驚いたようで「あぁ、そうでしたか......」と言った後真偽を確かめるようにジャックを一瞥した。


「......」


「......」


「はぁ......分かりました。ですがもう二度としないようにしてください。いいですね?」


「......はい......ごめんなさい」


あぁ......いいな......ジャックは。ここまで思ってくれる姉が居るなんて......


 駿はその後皆と他愛のない立ち話をした後、武具店を出て再度街へと繰り出した。


 ちなみに全員が防具ではなく武器を買った。


 予算的な面があるため防具か武器だったが、城から皮装備が貰えることとなっていることかららしい。


「後もうちょいで昼だけど、どこで食べる?」


 大勢の人が行き交う大通りを駄弁りながら歩いていると、頃合いを見たのか駿は後ろを歩くみんなに振り向きながら、そう言葉を投げ掛ける。


「私お腹ペコペコ~」


「私もお腹すいたよ~」


 希と夕香は少し苦笑しながら答え


「だったら近くの定食屋さんか屋台かな?」


 と、三波が反応する。


「駿。俺ぶっちゃけていうとさっき屋台で食いまくったから要らないわ......」


「それな......伽凛さんはお腹すいてる?」


「すいてるけど......近藤君は食べないの?」


「うーん......食べれないってわけじゃないけど......要らないかな」


「そっか......」


「じゃあ......あ、ルリアさんと弟君を入れて六人でどこかいく?」


「二人は椅子に座ってればいいんじゃない? 六人だけで注文すれば」


「じゃあそうするか」


 駿と優真は店には入るが注文はしない方向で次の方針が決まり、昼食を摂るために何処か適当な店を探すこととなった。










「───あそこは?」


「うーん......もうちょっと清潔そうなところがいいな~」


 道中で前を歩く夕香と希が先程から似たようなやり取りを繰り返している。


 基本的に駿は最後尾を歩くので、皆が何処に視線を向けているのか一目瞭然だった。


 女性陣は服屋や道具屋、飲食店、駿がプレゼントの時に買った装飾屋を中心に見ている。


 優真とジャックに限っては武器屋や防具屋、鍛冶屋、宿屋中心に見ていた。


やっぱり女子と男子の価値観は違うな......


 と、観察日記のように心のなかでぼやくと、歩く速度を落として隣に来たのか、突然ルリアから小言で話しかけられた。


「コンドウ様......少し良いでしょうか」


「......? はい......どうかしましたか?」


「先に話しておこうかと思いまして......明日、時間空いてますか?」


「はい......特には無いですけど」


「ではお願いがあるのですが、明日の十四時頃に魔術学園にお越しいただいても宜しいですか?」


「え?」


魔術学園? よくあるチーレムの舞台となるところだよな......   

          ↑※チーレム......チートとハーレムが合体してできた造語。


「そこで私の試合を見てほしいのです......」


「俺がですか? 別に良いですけど......なにか理由でも?」


 その言葉にルリアは少し妖艶な笑みを浮かばせる。


「いえ......ただ見にきてほしいだけでございます......」


「あっ......そうですか」


うーん......エロい笑みだったな......そそるそそる......てかなんで俺?


「では約束ですよっ?」


 ルリアはそう可憐な笑顔を向けた後直ぐにジャックのとなりへと歩いていってしまった。


まさか俺に気があるとか......


 少し黙考し、結論を出した。


うん。ないな。ルリアさん絶対学園に彼氏作ってると思う。あんなに可愛いんだし。しかも俺は伽凛さん一筋なんでな..................伽凛さんは誰が好きなんだろうか......考えると心が痛むぜい!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る