ボッチ、師匠に出会う

 ところ変わってここは魔族たちが住む『魔王軍』の領地の最深部。


 青いはずの空色は赤く、禍々しい空気が空を覆い、その空には鳥とは姿が大きくかけ離れた魔物が、大きな翼を羽ばたかせいる。

 

 『魔王軍』、即ち魔族統制機関の本拠地はそこにあった。


 魔王城は、魔族達がこれまで作ってきた大きな建物よりも、それを優に越すほどの大きさを誇り、十キロ先からでも見えるほどだ。


 『魔王軍』のトップ達と、貴族が集うので、必然的に城下町は財力が潤い、魔族にとってはここに来れば何でも揃うと言われるほど、商業が盛んだ。


 城下町は騒々しいが、魔王城に一度入ると、その騒々しさとは比べ物にならないほど静かだった。


 その理由は『魔王軍』の首領、魔王が住まう城であるため、余計なことして魔王の気を損ねれば、その時点で死刑になるからだった。


 魔王が住まう魔王城と、皆が住まう城下町はまるで対称的だ。


そんな『魔王軍』の領地の最深部の魔王城の、さらに最深部に位置する王の間で、トップ達が討論していた。




「───さて......まずは我々が攻めている『スイルヴェーン王国』との戦況を聞こうか」


魔王は玉座に悠々と座りながら肘掛けに腕を立てて、面白そうな顔で武官たちに問いた。


「は......我が『魔王軍』は現在、『スイルヴェーン王国』の主要都市のひとつである、イーリンに攻め、敵は籠城する形を取っていますが、周辺の村からさらってきた女、子供を正門の前でむざむざと殺し、見せつけることで不満を爆発させ、敵同士による内乱を狙っております......」


 ほう......? と、魔王はさらに続けるように促す。


「それと、戦力増強のために、『伝説の七剣』七種類の内、一本が『グランベル王国』周辺の遺跡にあるという情報が手に入りましたので早速、手練れを一人送りました」


「そうか......下がっていいぞ」


「は......」


 魔王は不適な笑顔を浮かべた後、こう呟いた。


「我を大いに楽しませてくれよ? 共存派の者共よ............」



▷ ▷ ▷ ▷ ▷ ▷



コホン......


と、王は咳払いをした後、こう言った。


「これから、お主達の師となる者達を紹介しよう......」


 あの、勘違い騒ぎが終わった後、王はすっかり泣き止んでおり、その瞬間に何か思い出したような口振りで近くの騎士に声をかけた。


 するとその騎士は急いでこの王の間を出ていったのだが、数分後、騎士は静かに扉を開閉して王の間に姿を現し、王の耳元でなにか伝えた後が今現在に至っている。


 因みにその走っていった騎士を俺たちは不思議に思いながらも、何かあったんだなと察して、とりあえずそこで勘違い騒ぎは終結し、皆は落ち着いた様子でその騎士の帰りを待っていた。


「本当ですか!?」


 王のその言葉に、皆は興奮した様子で入ってくるだろう扉に視線を向けた。


「本当じゃ......では、入ってくるがよい」


 そう合図した瞬間、扉が開かれた。

 

「「「おお......」」」 


 扉から入ってくる者達に、皆は感嘆する。


───はち切れんばかりの筋肉という鎧の上に、さらに白銀の鎧を身に纏っている大剣使いの騎士。


───青く長い髪の毛をゆらゆらと揺らしながら、美しい容姿にローブを纏い、雰囲気からも伝わる、スタッフを持つ女性は、いわゆる魔女だ。


───猫耳と尻尾が特徴的だが、短剣や様々なものをベルトや装飾品にも装備している女性は、一目で冒険者という言葉が浮かんでくる。


───白く長いローブを身に纏っている老人は、背を綺麗に伸ばし、スタッフを持つ指には様々な指輪をしている。一目でみれば、神官という言葉が思い付く。


───黒一色の服を身に纏い、フードを深々と被る男は、暗殺者という言葉が合っている。


───美しさと凛々しさを漂わせる長い赤髮の女騎士は、垂らしていた髪の毛をひとつに結びながら部屋に入ってきた。


 みんなの前に一列に並んだその者達の真剣な空気が伝わってくる。


そんな雰囲気だけでも凄い人たちに、全員が羨望の目を送る。


「では、歴戦の戦士たちよ。右から自己紹介を頼むぞ」


 すると、最初に部屋に入ってきた大剣使いから順に自己紹介を始めた。


「............私はここ『グランベル王国』騎士団の団長勤めている、アースレル・フェルトだ。主に教えることになっているのは近接戦闘系職業だ。宜しく頼む」


おおー......あのおっさんめちゃ強そうだ......おっと次は美魔女か


「次は私ですね。私はこの国の魔術学院に勤めています。リース・サリネといいます。主にスタッフを使った攻撃魔法を教えます」


リースさんか......魔術学院って言ってたけど、教師かなんかかな?


「次は私か~......私はここのAクラスの冒険者をやってる、フィスって言うの。宜しくね~? 私はなんだろ......あ、スキルの使い方だったっけ?」


猫耳! あれほんとに動いてるよ! ああ......触ってみてぇ......けど、なんかアホっぽいな、あのフィスって言う猫耳娘


「ワシはこの王国の神官をやっているものじゃ。主に支援系職業を教える」


この人は多分賢者辺りに就くんだろうな。実力もありそうだし、この人が教えれば峯崎さんだったらすぐに伸びるだろうな......


「............ナスリだ......宜しく......暗殺......教える」 


この人はなんか予想通りなんだが......本当に暗殺者なんだな


「私ね......私は『グランベル王国』近衛魔法剣士隊の隊長を任されている、アリシア・レイスよ。私は魔法を織り混ぜた近接戦闘を教えるわ。宜しくお願いね」


うお、改めて見ると超綺麗だな......峯崎さんと同等じゃないのか......? 可憐さといい、凛としてさといいどちらもいい勝負だな......


 何故か一人一人を分析をする駿をいざ知らず、王は自己紹介が終わったのを見計らって、話を進めた。


「ふむ......自己紹介は終わったな。次にお主らには職業ごとに分かれてもらうが......何か質問はあるかの?」


「「「......」」」


 誰か挙げてないか、言われた皆は一人一人見渡したが、誰も手をあげていなかった。


王もそれを見て頷き


「よし、では───」


職業ごとに並ぶのじゃ、と王が言った後、皆は職業ごとに並んだ。


 皆はまだ自分の職業を教えてはいなかったのか、同じ職業になった人と「お前も同じだったのか!」といった風に、楽しそうに話をしていた。


しかし、駿はというと


「うん......知ってた」


 当然、ダークナイトという職業は駿しかなってないため、最低でも四、五人ならんで居るのだが、唯一の一人だけの職業になっている。


慣れてるんだけどな......寂しい......


 駿は肩を下げながら、ため息をついた。


「───並んだな......では次にその職業ごとに就く師を決めるのじゃ」


 次に、職業ごとに先生を決めるようだった。


だが、駿はふて腐れていため


......まぁどうせあれだろ? あのムキムキ騎士団長なんだろ? マンツーマンで男と汗を流すんだろ?


 と、半場諦めて、ため息をつきながら渋々決めにいったのだが






───数十分後


「改めて、アリシアよ。宜しくね? あなたの名前は?」


おしゃあぁぁぁ! 


「近藤 駿です」


皆......成し遂げたぜ


「シュンね......分かったわ」


「はい! 師匠、これから宜しくお願いします!」


 男子達はこの組み合わせに納得いかないのか、駿を睨みつけていたが、女子達は上の空だった。


 しかし、女子達の中にいる伽凛はアリシアのことを睨みつけながら、こう呟く。


「近藤君は......渡さない」


 そんな駿と、男子達と、伽凛の様々な思いがすれ違うこの師を決める時間の中で、駿はマンツーマンでアリシアの元で、剣術を学ぶことになった。

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