第226話 レイリク鍾乳洞②
「それで、ここからどうしょうか」
レイリク鍾乳洞と名付けられたその観光名所は無粋な騎士団員で囲われている。
「突然声を掛けても相手にされないだろうけど領主様と一緒なら大丈夫なんじゃないか?」
ロックが珍しく真面なことを言った。
「そうだね。領主様が僕たちを裏切らない限り、ね」
「なるほど、俺たちに脅されてここまで連れて来られた、とか言われたら何も聞かない内にアストラッド騎士団と一戦交えないといけなくなるか」
それは太守の嫡男であるソニー=アレスの手前もあって避けたかった。万が一の時、ソニーが自分の立場を悪くしてもロックたちを庇ってくれる保証はない。
見たところ鍾乳洞の入り口に待機している騎士団員は15名。ロックがさっき倒した領主の手下40名とは比べ物にならない程経験も豊富で技量も格段に高い。
マゼランでは修行中の剣士たちを大勢見てきたが、ここに居るのはその修行を終えて正式に入団を許された団員たちなのだ。
「で、どうなんだ?俺たちを裏切るのか?」
ロックが直接ファクナー=サイン子爵に聞く。
「とんでもない。儂が裏切るわけがないだろう」
全く信用が置けなかった。ただ一つ、ロジックの名前が本当なら、という懸念をサイン子爵がどう思っているか、ということが分かれ目になる。
「信用してないけど、まあ、裏切ったら裏切ったで騎士団員を無力化してから十分後悔させてあげますよ」
ロックに言われるよりサイン子爵はルークに冷静に言われる方が恐ろしかった。
「いっ、いや、大丈夫だ、本当に裏切ったりしないから騎士団の前に連れて行ってくれ」
どうもその素振りからすると裏切りは確定的なように見える。ルークは既に裏切られるつもりでいる。
「判った、このまま普通に出て行こう」
三人が普通に隠れていた茂みから出て騎士団員たちに近づいて行く。直ぐに一人が気が付いた。
「おい、何者だ、近づくな、そこで止れ」
すぐに領主に騎士団員が気づいた。
「サイン子爵じゃありませんか、どうされたんですか?」
領主以外の二人には見覚えが無かったが一緒に来ているのだから関係者だと思って騎士団員たちの緊張が少し弛んだ。
「ああ、ちょっとここが見たいと言う者を連れてきたのだ。中に入れてくれないか?」
予想に反してサイン子爵はロックたちの役に立とうとしていた。その心中は計り知れないがルークの脅しが効いる可能性も高い。
「それは駄目です。ここをお通しすることはできません」
「ここは儂の領地内だぞ?」
「先にお話しした時にちゃんとお伝えした筈だと思いますが。レイリク鍾乳洞は封鎖させていただきますと」
「それは聞いておる。聞いた上で申しておるのだ。責任者を呼んでくれないか」
騎士団員の数人が話をしている。そしてそのうちの一人が鍾乳洞の中に入って行った。
「少しだけお待ちください。中隊長に隊長に了解を得てまいります。ただ許可が下りるかどうかは保証できません。確認してもお入りいただけないこともあります。それと中隊長は最下層にいらっしゃいますので少し時間をいただきます」
「よかろう。ここで待たせてもらうとしよう」
「それで領主様、その中を見たい二人と言うのは一体どちら様でしょうか」
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