第194話 剣士祭Ⅲ⑩
剣士祭本選一回戦と準決勝の間には1日の休みがある。連日の試合で疲れないように、という配慮だ。
「今日は一日修行は無しだ。十二分に身体を休めて明日に備えてくれ」
アクシズはそういうと自身はどこかに出かけて行った。道場に居ない間、アクシズが何をしているのかは誰も知らない。
「俺も出かけて来る」
マコトも出て行った。二人とも多少危ない目に遭っても一人で切り抜けられるだろう。ランドルフ道場の報復は警戒しておかなければならない。
「ちょっと提案なんだけど」
ルークは残ったクスイーとミロ、そしてロックを呼んで話を始めた。試合中を含めてルークたちがミロを見られない時の対応だ。
「本人が良ければいいんじゃないか?」
ロックはあまり拘りというか関心がない。問題はクスイーだ。ルークですら理解できる心情をクスイーは全く理解していない。
クスイー本人があまり気に留めもしていないので、それでもいいかとルークは道場の外に出た。そして直ぐに戻ってくる。
「えっ、えっ、えっ」
ルークに連れて来られた本人は何が起こったのか理解していない。
「あれ、君は確か」
ドーバ―道場のトリスティア=アドスレンだった。
「あっ、あっ、そうです。トリスティアです」
クスイーは実は名前までは覚えていなかった。自分が負けた相手、という認識でしかない。
「ルークさん、これは一体?」
「彼女にミロの面倒を見てもらおうと思うんだよ」
「わっ、私がですか?」
「そうなんですか。でも一体何故彼女が?」
クスイーには多分何も通じないだろう。
「クスイー、君から彼女にローカス道場に入塾してもらえないか、頼んでみてほしいんだよ。剣士祭の間だけでもいい」
クスイーは何を言われているのか、あまり理解はしていなかったがルークが言うのだ、従うことにした。
「判りました。あの、トリスティアさんでしたか、できれば少しの間だけでも、このミロさんの傍に居てくれませんか?」
トリスティアはクスイーの話をちゃんと聞いていないが、話の内容は判っていた。ローカス道場でただひとりのミロの護衛役だ。クスイーの父で臥せっているウォード=ローカスはルーリ=メッセスの伝手で病院に預かってもらっている。ガーデニア州騎士団の病院なのでそこは安心だった。
「わっ、私なんかで良ければ」
クスイーの方を見もしないでトリスティアが返事をする。近くでは真面に顔を見れないのだ。
「ありがとう、助かります。でもドーバ―道場の方は大丈夫ですか?」
「はい、元々私は今回の剣士祭を終えたらバウンズ=レアに戻るはずでした。マゼランでの修業は終わりなのです。女剣士にはあまり長期間の修行の機会はいただけません」
女剣士の数は極端に少ない。どうしても膂力の差は歴然だからだ。
「でも私はドーバ―道場ではあまりいい剣士にはなれませんでした。女剣士は道場で一番にならないと剣士として仕官することはできないのです。戻っても剣士としではなく、ただの召使として生きていくことになるでしょう」
「君はそれでいいのかい?」
「できればもっと修行をしたかった。私は剣が好きなのです」
「君さえよければ、君が迷惑でなければこの道場に来ないか?」
クスイーの提案はトリスティアにとって願っても無いことだった。これで一応はランドルフ道場対策が出来た。憂いは断っておきたかったのだ。
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