第97話 暗躍Ⅲ③

「その魔道士の名はブラン。数字持ちではないけど、それ相応の上級魔道士だ。別名、血のブラン。血液を使う魔道を得意としている。そして若返りの魔道は彼が生み出した秘術だ。」


 なぜそんなことをソニーが知っているのか、それも気になったが、そもそもそれを伝えに来た目的が皆目判らなかった。


「なんでそんなことを知っているんだ?それを俺たちに教えて君に何の得がある?わざわざ自分の身をさらしてまで犯人を捕まえたいとかの正義感で動いているようには到底見えないんだがな。」


「確かに自分でもそう思うよ。そしてロックの言う通り正義感で動いていることもない。僕には僕の目的があって動かせてもらっている。君たちの助けがしたい、なんて空々しい嘘を聞いても仕方ないだろ?」


 ソニーは開き直っていた。ただ、それだけにその情報は信用できるのかもしれない。


「ソニーはそのブランを知っているの?」


「ルークは聞いていないかも知れないけど、血のブランは実は影のガルドの弟子なんだ。」


「数字持ちの魔道士第6位の影のガルド。なるほど、それでその情報をソニーが持っているんだな。」


「ああ、僕がガルド老師と繋がっていることは知っているんだね。それなら話が早い。そういう訳で僕はブランの情報を持っているんだ。彼はガルド老師の元を破門されて出て行ったんたけどね。その原因になったのが例の若返りの秘術だった。」


 ブランは別名で血の、と呼ばれるほど血液の利用に長けていた。その研究の中で若返りの秘術を編み出したのだ。それは大勢の男女が高まった状態で血を抜き、それをブランの魔道で秘薬に変える。それを浴びるほど大量に使うことで少しづつ若返るのだ。一人が十歳若返るのに二十人の男女の血が必要だった。身体の中の血液全部という意味だ。


 ガルド老師はそのことを知りブランが若返りの魔道を使えないよう封印を施したうえで放逐したのだった。その封印を自らの力か、誰かの力かで解いたのだろう。そして自らの魔道が正確に結果を出せるかどうかの実験をするのにディアナ=アクトレスを利用したのだ。


「ガルド老師はブランを追ってエンセナーダに入った。僕は、まあ、また違う目的で老師と同行して一度通過したエンセナーダに戻った、ってところかな。」


「君の目的は違うんだね。」


「そうなんだ。ルークは少し理解してくれるかも知れないけど、僕の目的はガルド老師とは違う目的でブランと会いたかった。老師は今一度ブランの若返りの魔道を封印すること、そして僕はただ単に興味本位で上級魔道士であるブランに会いたかった、という訳さ。」


 ソニーは嘘を吐いている。というか、本当のことを言っていない。興味があって会いたい、というのは本当のことでも、なぜそんなに興味があるのか、を語っていない。多分問い詰めても言わないだろう。


「そうなんだね。それで戻ったのはいいけどちゃんとガーデニア州に連絡をしておかないといけなかったんじゃないの?」


 そうなのだ。ソニーにはその点が一番の問題だった。仮にも太守の嫡男なのだ。勝手に他州を往来していいわけではない。正使としての訪問ではないにしても何かあった時のために州政府には連絡を入れておくことは通例になっていた。ルークについても少し遅れたようだがちゃんと養子にしたことを含めて連絡が入っている。


「それは申し訳ないと思っている。ブランのことがなかったら僕もアークと一緒にアストラッドに戻っていたはずなんだけどね。」


 それでも本来は連絡を入れたうえでのことのはずだ。やはり大っぴらに訪問や通行を連絡できない裏の事情というものがあるかも知れない。


「ソニー=アレス、それは間違っているぞ。通るなら通るとそれだけ伝えれば何も問題はなかったのだ。」


 いきなりグロウスが入って来た。これはグロウスの方が正論だ。


「グロウス=クレイ男爵、これは本当に失礼をいたしました。西に向かうときは海路であり、ロスから戻るときにこのガーデニア州を通らせていただいたのですが、帰路についても最初は海路でと思っていましたがロスでの黒死病事件の所為で急遽陸路となり、ご連絡することが出来なかったのです。本当に申し訳ありませんでした。」


 ソニーは素直に謝った。下手に理由をこじ付けても信頼を失うだけだと判断したのだ。言うわけには行かない何かの理由を隠している。グロウスは気が付いてはいないようだったが。


「判った。以後注意してくれればいい。それで情報を持ってきてくれたと聞いたが。」


「そうです、多分犯人というか首謀者の魔道士はブラン、血のブランという魔道士だと思われます。」


「血のブラン?なんだか物騒な名前だな。それでそいつの居場所は判るのか?」


 ソニーはブランの更なる情報を語り始めた。

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