第70話 陸路を行く⑥

「珍しい馬車の一行だな。キャラバンでもなさそうだ。」


 ロックたちの馬車に先行して街道を走る一行があった。キャラバンにしては少ない。またロックたちのような一輛立ての馬車も珍しかった。普通は隊列を組むのだ。


 先行しているシェラック一行もロックたちの馬車に気が付く。


「シェラック様、馬車が一台、追いついてまいります。」


「一台ですか。もしかするとロック=レパードたちかも知れませんね。」

 

 シェラックは正確に馬車の正体を見抜いていた。ロスを出て、そろそろ追いつかれても可笑しくないとは思っていたのだ。そしてロックたちの馬車が追い付く。


 街道で石が敷き詰められていて馬車が通れる幅はそれほど広くはない。外れると泥濘に嵌まってしまう可能性もある。すれ違うことも少ないが追い越されることはもっと少なかった。


「少し真ん中を走ってください。」


 シェラックは御者に指示した。勿論ロックたちの馬車の行方を遮るためだ。


「なんだ、通れないぞ。」


 ロックは馬車の速度を緩める。そしてとうとう止まってしまった。先行する馬車から人が降りて来た。ロックたちも降りる。


「なんだ、何か用なのか?」


「用と言うか、少し話をしませんか?」


 シェラックは丁寧に話しかけた。


「こっちは急いでいるんだ、先に行かせてくれないか。」 


「少し話をするだけですよ。あなたたちはどちらに向かってらっしゃるのですか?」


「だから先を急いでいるんだって。この先にいる筈の奴らに追いつきたいんだ。」


「先に居る奴ら。あなたたちが追いかけているのは終焉の地ですか。」


「なんだ、何か知っているのか?」


 ロックはシェラックに少し詰め寄った。


「色々と情報を分析すると解が求められるものです。あなたたちと敵対していておいかけているとしたら終焉の地、ルシア=ミストしかありませんでしょう。」


 ロックたちは最大限の警戒をする必要を感じた。この男は危険だ。ロックが見るに剣の腕は大したことが無いと思われる。この男の恐ろしさは剣の腕には無いようだ。


「お前、何者だ?」


「私ですか。私はただの商人ですよ。」

 

 全く信用できない男だった。確かに恰好は商人を真似てはいるが年齢はロックたちと変わらないようだ。そして感じるのは老獪さだった。


「そんな訳が無いだろう。それに俺たちのことも知っているようだし。」


「勿論知っていますよ、ロック=レパード様。お連れの方はどなたか存じ上げませんが。」


「確かに俺はロック=レパードだ。こっちはルーク=ロジック。名乗ったのだから、そちらも名乗るべきだろう。」


「私などは名乗るほどのものではございません。終焉の地を追いかけておられるのは何か訳が?」


「同行者が攫われたんだ。だから急いで追いつかないといけないんだ。早く通してくれないか。」


「なるほど終焉の地らしいですね。判りました、どうぞお通りください。」


 そういうとシェラックは指示してロックたちの馬車を通させた。


「お気をつけて。何かお手伝いできることがあるといいのですが。」


「いや、とりあえずは通してくれてありがとう。先を急ぐので。」


 ロックたちはシェラック一行を追い越して先を急いだ。


「シェラック様、よろしかったのですか?」


「ええ、誰か彼らを追わせてください。場合によっては終焉の地を先に捕まえて人質をこちらの手に、ということもできるように。」


 自分の知らない所で事が起こっているのが腹立たしいシェラックだった。

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