帰る家
たいへん風の強い日があった。気温が高かったので助かったのだけれど、助からなかったものもあった。
鳥の餌箱が落ちてしまったのだ。おそらく気づいたのはすぐだった。でも春から秋にかけては餌を置かないし、まあいいやとそのままにしていたわけだ。
数日経ってから、いよいよ設置しなおしておこうと家の裏に回った。草むらのなかから拾いあげてみると、つるしておくための麻紐が切れている。
そのとき、なんとなく上を見あげた。音が聞こえたのかもしれない。あとの衝撃が私の五感の記憶をぬりかえてしまったのでよくわからない。なんとスズメバチの巣があった。さんかく屋根のてっぺんに、おおきく育った巣だった。キイロスズメバチっぽい。直径三十センチくらいはありそうな巣で、ハチ自体もたくさん飛んでいるしまわりについてるし何より羽音がすごい。こんなに大きな巣で、こんなにハチが飛んでいるというのに、まったく今日まで気づかなかったことにも驚いた。
次の日、地元の消防署に電話をして即時撤去してもらうことに。仕事なので立ち会えないと言うと、それでも大丈夫ですと言ってくれた。
電話を切ってから、そういえば写真を撮っていないことに気づいた。あれだけ立派なのだから、記録くらい残しておきたいと思ったのだ。普段はなんでもかんでも写真を撮っておくくせにすっかり忘れていたなんて、このときばかりはそれくらい驚いていたようだった。
もう帰宅したときにはきれいさっぱりなくなっているはずだから、このお昼休みが最後のチャンスだ。車を走らせて、シャッターを切って、その勢いのまままた職場に戻った。
こうして記録を残せたわけだが、なんど見ても大きい。そして撤去されたあとも、巣があった付近にハチが飛んでいる。帰る家を探している。今日まで気づかなかったわけだし、私の活動範囲を飛ぶわけでもない。まわりに家もない。そのままでもよかったかもしれないなんて、思ってしまう私がいる。
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