十月ついたち

 昼間にまだ二十度まであがるなんて、と思ってしまう朝、十月の入口に立っている。

 今年の春、私の命綱であるストーブが故障した。スタンドの人に点検に来てもらったが、その場では原因がわからず。基盤だとすれば修理費結構高くなるよ、と言われた。型番を調べてみると二十年くらい前のものらしい。典型的な「直すより買った方がいい」というやつだった。

 季節的に多少我慢すればストーブがなくても過ごせるくらいだったので、購入は型落ちが出る六月まで待つことになった。

 そうしてやってきた真新しいストーブに床暖機能はついていない。今までも使っていなかったのでいいのだ。ホースがなくなった分、部屋の中がスッキリした気がする。

 ちょっといい気分になった私は部屋の模様替えに着手し、その過程でようやく、底板のズレたアルミラックを正常にした。今は押し入れの収納に活躍してもらっている。末長くよろしく。

 そんなストーブが通常運転になる日が近づいてきた。とはいえまだ数回程度。妙に暖かい気がする。こんなもんだったっけ。毎年同じことなのに、この気温でどんな服装だったか、何月にどれくらい寒くなってたかすっかり忘れてしまう。

 私が季節に翻弄されているあいだにも、山や森の木々は着実に色彩を鮮やかにしていく。彼らは忘れないし、そそっかしくもない。きっちり順番に、丁寧に季節をこなしていく。夏が終わって秋が来たのだと知らせてくれる。

 見上げれば緑を真っ赤なヤマブドウが覆い、高くなった空が垣間見える。黄色が添えられていれば抜群で、せっせとカメラを構える。でもいつも、何枚撮っても写真になるとふしぎと味気ない。確認しては、目の前のこっちのほうがきれいだと、消してしまって一枚も残らない。

 最近では諦めてただ眺めるだけの私の前を黒い塊、エゾリスが横切っていった。冬支度がんばれ、と無責任なエールをおくる。道端に落ちるクルミをタイヤで踏まないように、少し避けて走った。

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