04:面接ってママさんとの実技試験?



 そうして俺達は、別室に通された。

 用意されてあった長椅子に女神様と並んで腰掛けると、先程の美少女をそのまま大人にさせたような、銀髪の美人が現れた。お姉さんだろうか。


「あの女の母親ですよ」


 女神様が耳打ちした。吐息がくすぐったい。

 母親にしては若い。いや、若く見えるだけなのかな?


 こっちは、なんと尻尾が二本もある。

 大人になると増えるのだろうか。

 モフモフの尻尾に挟まれて、モフモフされて、モフ死にしたい。


「顔が気持ち悪いですよ」


 横腹を肘で突かれた。



「母親って、どうしてわかったんです?」

「見ればその人の名前と簡単なプロフィールがわかります。これも、数少ない今の私の使える力ですね。ちなみに、受付の方はルーシア、15歳。処女です」


 しょ、しょしょしょ、処女!?

 えっちなお店の店員さんなのに!?

 もしかして、お母さんのお店の手伝いをしている――とかかな。

 本当はえっちなお店が恥ずかしいのに、親の言うことだから仕方なく働いている。

 とか?


 身体はえっちなのに、中身はウブだなんて。ギャップ萌えですなぁ。

 いや待てよ。恥ずかしいけど、内心ではえっちなことに興味津々の可能性も――


「君、えっちの経験は?」


 ママさんの声に、ハッとなった。



「えっ? 誘われてる? まさか、面接ってママさんとの実技試験?」

「普通の面接ですよ?」


 にっこり微笑むママさん。

 うわっ、恥ずかしっ!

 声に出てた。


「煩悩しかないですね」


 女神様の呆れ声。



「それで、どう? 経験あるの?」


 ええー。こんな質問、されたことないよ。どう答えるのが正解なの?

 えっちなお店なんだし、ありますって堂々と答えればいいのかな。

 きれいな女性相手に、ちょっと恥ずかしいけども。

 まあ、そもそも未経験っていうね。

 よくわからないんで、ここは「答えは沈黙!」ってことで。


「初めてなのね。真っ赤になっちゃって、可愛いわ♡」


 ダメだった。

 態度でバレバレみたい。


「それじゃあ、キスの方はどうかな?」

「あ、ああ、あります! キスの経験は!」



 さすがにキスもまだなんじゃあ、落とされるかもしれないからね。

 まあ、キスの相手は抱き枕だけど!

 ついでに、おっぱいを揉んだ経験もあるよ。バストアップ用のシリコンおっぱいを仕込んだ抱き枕だけど!


 でも、本物に近い柔らかさだって言ってたし。Bカップのおっぱい相等って書いてあったし。

 ということは、Bカップのおっぱいを揉んだってことでいいよね?

 ちらりと横を見ると、うわぁ。女神様がまたまた呆れ顔。見栄を見透かされている。



「そっか。おっけおっけ」

「……え? いいの?」


 それなのに、ママさんは頷いた。



「んじゃ、詳しいお仕事の内容については、この冊子を見てね。君達のお部屋は隣の建物。202号室ね。はい、鍵。あ、朝昼夜のご飯は一階の食堂で出すから、食べたかったらちゃんと来てね。食事の時間に関しても、冊子に書いてあるから。それじゃ明日からよろしく~」


 ママさんは俺と女神様用に二つの鍵と、それから小冊子を手渡してくれた。そして、手をヒラヒラ振って部屋を出て行く。


「随分あっさり決まりましたね」

「明日からとか、緊張で吐きそう……」

「吐くならトイレ行ってくださいね」

「女神様が手で受け止めてくれたりは――」

「するわけないでしょう、ド変態」


 呆れ顔でのド変態、頂きました。

 ちょっと、興奮した。




                 ❤❤H❤❤



 部屋は殺風景なワンルームだった。二段ベッドと布団や枕等のお眠グッズ一式、木のタンス、申し訳程度の台所(というか流し)がついているだけ。窓にはカーテンもない。あ、水道はあるんだな。ガスは――ないみたい。火の魔法を使えばいいの?


「もっとこう、回転ベッドとか、ミラーになってる床があるのかと思った。普通に質素だなあ」

「家具があるだけマシですよ」


 女神様、達観してるなあ。

 な~んもない真っ白い世界にいたんだし、この程度の殺風景じゃ動じないのかも。

 特に荷物もないので、その後は手持ち金で必要最低限の衣服とカーテンを買いに出かけた。女の子との買い物って楽しい。


 晩飯はルーシアさんが作ったという、カレーだった。他の従業員の姿は現れず、俺と女神様とルーシアで黙々と食べた。

 寮には小さなシャワールームが有り、交代制で軽く身体を流した。石鹸も存在する世界だったのが、ありがたかった。女神様のシャワーを覗こうとも考えたけど、軽蔑されて見捨てられるのは嫌なので、やめた。


 そして、夜。

 部屋の窓を開けると、小さなベランダがある。人が二人立てる程度の、狭いスペースだ。そこから見えるのは、風俗街の裏側。民家の並ぶ小さな通りだった。


「というかどうしよう! キス経験あるなんて言ったけど、抱き枕にしかしたことないぞ!」


 一段落ついたせいか、急に不安になってきた。



「一応キスはキスなんじゃないですか?」


 ベランダで頭を抱えると、ベッドに腰掛けていた女神様が言った。



「そんな適当なこと言わないでくださいよっ!」

「知りませんよ。トモマサさんが答えたんじゃないですか」

「そうだけどさ……」


 働きたくないけど、生活費稼がなきゃだし、落とされるのは嫌だったし。



「ああ~、舌を絡ませるとか、歯と歯がぶつからないようにするとか、そーゆーのどうすればいいのかわからないし! キスのタイミングもわからんし! 客に要求されたらどうすれば! そもそも俺なんかが客を取れるのか? うあああああどうしよおおおおおお!」

「うるさいですね。なるようにするしかないじゃないですか」

「そうだけども!」


 衣服の購入にだいぶお金を使ったからね。追い出されたら、結構やばい。

 そもそも、女の子の顔をまともに見るのさえ難しいんだけど。

 でもなんとか、仕事をこなさないと!

 せめて!


 せめてまともなキスの経験くらいあれば、自信がつくのだろうか。

 キス――。


 そうだ!


「女神様! キスの練習させてください!」


 俺は土下座した。


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