第29話 魔物襲来! 壊された城壁④
そして、研吾たちはモロゾフの家の前へとやってくる。扉を軽くノックすると中から「誰だ」という声が聞こえ、扉が開く。
「なんだ、先生か? どうしたんだ?」
「実は――」
研吾はモロゾフに土魔法のことを相談する。
「確かに俺は土魔法が使えるが、この町の周り一体に堀を作るのか……。出来なくはないが少し大変そうだな」
「出来るのですか?」
「あぁ、ただ日にちと労力が必要だな。一月くらいは見て欲しい」
(一月か……魔物が襲ってくるまでの期日次第だな)
ただ、魔物襲撃の期日までにさえ間に合えばできるということは研吾の自信につながった。これで問題のうちの一つ、安全に撃退するという部分はクリア出来たわけだ。
城壁だけでなく、堀の二段構えになるとすぐに城壁にダメージがいかないし、水でも張っておけば魔物の進行を抑えることもできるだろう。
その間に遠距離からの攻撃で魔物を倒してしまえばいい。
この倒し方ならそうそうけが人も出ないだろう。
ただ、周りに堀を作るなら橋も作っておかないとね。門の前の部分に……。
これは土魔法で掘り始めた時に同時進行で作っていこう。
一通り考えをまとめた研吾はモロゾフに話がまとまったらまた連絡することだけを伝えて、壊れた城壁の部分を見に行くことにした。
バルドールに指示は出したけど、果たしてちゃんと工事してるだろうか?
どうしても自分がいる見ているわけじゃないので不安を隠しきれない研吾。
しかし、そんな心配はどうやら杞憂だったようだ。
バルドールは大臣が手配してくれた人たちを使い、壊れていた城壁を修復していってくれていた。
ただ、使っている素材……それがおおよそ壁を構成してるものに見えなかった。水より少し粘り気がある液体。それをその部分にかけるとコンクリート壁のような灰色の壁が盛り上がってくる。これを何度も繰り返し、壊れた部分を修復していっていた。
「あれはなに?」
その液体を指差してミルファーに聞いてみる。
「あれは凝石液ですね。かけた部分に土の魔力を集めて、そのまま壁にする薬にだよ」
そんな便利なものが……あれっ、それなら——。
「今まで家を作るのもその薬で作れば簡単だったんじゃないの?」
「いえ、あの薬はとても高価なものになるんですよ。今回の壁の補修は緊急ですから大臣様が用意してくれたんでしょうね」
高価……、あまり聞きたくないが念のためミルファーに値段を聞いてみると、それ一本で研吾が今まで直してきた家が全て直せ、その上でお釣りが帰ってくるほどの値段だった。
「それはさすがに普通の家には使えないね。でも、あれを使ってるならとりあえず壁の修復は問題ないね。応急処置だから本格的な修繕もしないといけないだろうけど。あっ、そうだ。ミリス、念のためにあの薬をかけて直した部分の壁——。あれも調べといてくれない?」
少し気になることがあったので一緒についてきていたミリスに探知の魔法を頼む。
「探知の魔法? わかったよー、その代わり晩御飯おごってね」
あっさりと対価を求めてくるところがミリスらしい。苦笑いを浮かべながら研吾は頷いた。
新しくできた壁の部分を調べてもらうと研吾の想像通り、とある事実がわかった。
「あの壁、魔力耐性が殆どないね。 魔法で攻撃されたらすぐに壊れるよ」
壁を作るのに魔力を使ってるからもしかしたらと思ったけど、やはり壁本体には殆ど魔力耐性が残されていないようだった。
「ならやはり魔力耐性を引き上げることは優先しないとね」
研吾は紙を取り出すと達成の見込みがついたものに横線を入れていき、『魔力耐性が低下した壁の強化』の隣に最優先の文字を書き加える。
「ただ魔力耐性を強化するには魔吸石が必要だから、それだけの量を集められるか……」
「聞きに行くしかないですね。モロゾフさんのところに行きますか?」
「どうしてモロゾフさん?」
前、魔吸石を買ったのはただの道具屋さんだ。
「だって、魔吸石といえばドワーフの町の名産物ですよ?」
あっ、そうだったんだ……。
「なら大量に準備できるかをモロゾフさんに聞いてみれば——」
「はい、もしかしたらこの問題も解決できるかもしれませんね」
ということで早速モロゾフの家に向かう研吾たち。
モロゾフはちょうど旅立つ準備をしていたようで研吾は間一髪、家を出る前のモロゾフを捕まえることができた。
「おや、先生か。どうしたんだ? これから昨日話していた土魔法が使えるものを集めに行くんだが……」
「その前に少し聞きたいことがあるんですよ」
研吾は壁の補修に魔吸石が足りないことを説明する。
「わかった。向こうに行ったときに聞いておいてやるよ」
「ありがとうございます」
これであとは返事待ちだな。
今できることはしたので、そのことを大臣に説明しに行く。
「ケンゴ様、どうかされましたか?」
すでに研吾に見つかったからか、大臣は手作りのお城を目の前に置いたまま対応する。
「実は城壁のことなんですけど——」
「あぁ、バルドールから聞いてるよ。相変わらず仕事が早いな」
いきなり褒められる。どういうことだろう?
「あっ、いえ、その話ではなくて……、というかまだ仕事もこれからかかるのですけど?」「でも今朝方にバルドールが凝石薬を持って行ったぞ。あれで早速壁の修繕を始めたのだろう?」
「確かに壁の修繕は始めましたけどあれは応急処置ですよ」
「どういうことだ?」
「あの薬を使うと壁は出来ますけど、その壁は魔力の耐性が低いんですよ。だからあくまでも応急処置なんですよ」
そして、研吾は今のところ準備していることを大臣に説明する。
「魔力耐性を上げるために必要な魔吸石。あと、周りの堀を掘るための人材を集めるためにドワーフ族のモロゾフさんが動いてくれています。今はそれを待っている状況です。ただ、魔法を使ってくるような魔物が現れたらそのときは警戒してくださいね」
「あぁ、わかった。伝えておこう」
これでひとまず問題はないだろう。
「ではまた修繕が書かれるように鳴ったら報告に来ますね」
「よろしく頼む」
研吾が帰る素振りを見せるとそわそわとし始める大臣。おそらく作っている途中の模型のことが気になるのだろう。研吾は苦笑いしながら部屋を後にした。
そして、ドワーフ族の村に向かったモロゾフが帰ってきた。
しかしモロゾフ一人帰ってきたわけではなく、数人のドワーフの男性を引き連れて帰ってきた。しかも、その後ろには魔吸石と見られる石がたくさん運ばれてきていた。
「先生にはすごくお世話になったからな。その恩に報いるために頑張ったぞ」
モロゾフは胸をぴんと張ってうれしそうにしていた。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
研吾はお礼を言う。すると、モロゾフが研吾の肩を叩き首を横に振る。
「いや、作業はこれからだ。早速指示をしてくれ」
「そうですね。ただ、まずは大臣に話をしてきますので、今日のところは休んでてもらえますか?」
そこまで言ったあとで研吾は宿のことをどうするか考えていなかったことに気付く。すると隣からミルファーが肩を軽く突いてくる。
「どうかしたの?」
小声でミルファーに聞いてみるとミルファーも合わせたように小声で話しかけてくる。
「宿でしたら大臣様が準備されているそうですよ。私がそちらにお連れしますね」
そこまで動いてくれていたんだ。研吾は少し安心して後のことはミルファーに任せた。
その後、研吾は大臣に報告に行った。その際、翌日から堀を作り始めることの承諾を得ておく。
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