お父さん娘に頼る

「ありがとう、えみ」


 咲人はスマホを仕舞ながら呟いた。ここまできたら足踏みはしていられない。

 まずはメモ帳を取り出して心情を書きなぐる。とにかく独りになって頭の中身と心の内を写していく。

 そしてえみに伝えたいこと訊ねたいことをまとめていく。

 大体の下書きを終えると、咲人は息を吐きスマホで清書を開始した。

 アンビエントに突然「アンと呼んで」と言われたこと。

 習慣から呼べなかったこと。そして怒らせてしまったこと。

――ヘタレだな、まったく。

 彼女の好意は正直嬉しく思っていること。

――恥ずかしい、けど、うん。嬉しいのは確かだ。

 けれど、それを受け入てしまえば彼女の傍を離れられなくなるのではないか。

 それはつまり元の世界に帰ることを諦めることになるのではないか。

 かといって、彼女を見捨てることも難しい。

――ああ、俺は後ろめたいんだな。

 それを箇条書きに近い形で淡々と綴った。この時点で穴に入りたい気分だ。

 だが、書き換えてしまえば何かを隠すことになる。

――そんな不誠実な真似は許されない。娘を頼っているのだから。

 咲人は苦々しい表情を浮かべ、祈るような姿勢でメールを送信した。 

 異世界の空は澄み渡る青をたたえていた。

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