002【2】

「まっ、てことでさ今日はバベルの塔に行けないわけなのさ」


ジャックは残念そうに言っている割りには、顔はニヤニヤしていた。


「ダメだった割りには余裕そうな顔してるな……お前何か企んでるだろ」


「ヘッヘッ、まぁ企んでるって程じゃないけどさ実は良い所見つけちゃって。今日は空き日になっちゃったし行ってみるのもいいんじゃないかなぁ~ってさ」


するとジャックは懐から一枚のチラシをキョウスケに差し出す。それは市街地でビラを配っている魔物から一枚もらったものだった。


「うわ……僕には読めないや」


しかしチラシには魔文字という、魔物が使う文字で言葉が記載されてあったため、チラシを受け取ったキョウスケには読めなかった。


「どれ、俺に見せてみろ」


「うん……」


キョウスケは屈み込み、グレイに見えるようチラシを広げる。


「新発見……エキドナの遺跡観光?何だこれ?」


グレイはチラシを読み、眉をひそめる。

それはエキドナの遺跡へ向かうための、旅行者向けに配るチラシだった。


「いやぁ、バベルの塔から帰る時にツアー客を見かけてな、そいつらが妙にはしゃいでたからオイラも気になっちまってな」


ジャックは後頭部をさすりながら笑う。

しかしそんなジャックを見て、グレイは大きな溜息をついた。


「あのなぁ……さっき言ったばかりだろ目立つようなことは控えようって。こんな観光名所みたいな所に行ったらそれこそどんな奴に目をつけられるか分からん」


「ヘッヘッだけどグレイよぉ、そこは今人気の観光場所なんだから魔物も多いし、十分隠れることはできると思うぜ?むしろこういう街でじっとしてる方が目立って仕方ない」


シンアルの街はアンダーグラウンドの市街地とは異なり、多くの住人や観光客で賑わう一大都市だった。

木を隠すなら森の中というように、魔物達に紛れ込むのは有効な手ではあった。


「俺達はいいかもしれんが、キョウスケはどうするつもりだ。魔物の中に人間が混じってたらそれこそ目立つだろ」


「魔物に……あっ……でもちょっと待って」


グレイの一言で、キョウスケは何かを思い出し背負っていたバックパックを下ろして、中を探り始めた。


「あったあった!さっきグレイが治療してる時にカバンの中身を確認してたんだよね」


そう言ってキョウスケがバックパックから取り出したのは耳の尖った付け耳だった。


「……おいまさかそれで魔物に変装するとか言うんじゃないだろうな」


「えっ?そうだけど?」


キョウスケはきょとんとした目をし、グレイは呆気にとられてしまう。


「そんなもので変装出来るわけないだろ!というよりカコさんも何故こんなもの入れたんだ……?」


このバックパックを用意したのはキョウスケの母親カコであり、つまりこんなものをバックパックに入れたのはキョウスケではなくカコだった。


「ヘッヘッ!まぁ何もしてないよかいいんじゃねぇの?他にもなんか無いのか?」


「うぅん……ちょっと待って」


更にキョウスケはバックパックの中を探る。すると中からは付け耳の他に黒装束と長く先が曲がっている付け鼻を取り出す。


「……これもしかして魔術師のつもりか?」


「ヘッヘッヘッヘッ!そうかもしれないな!ちょっとキョウスケ着てみろよそれ」


「うん……」


キョウスケは取り出した物を全て装備してみる。付け耳までは自然だったが、黒装束と付け鼻を付けた途端、その胡散臭さは際立った。


「ヘッヘッヘッヘッヘッヘッ!!こりゃいいや!魔物以上に怪しさ満点だぜ!!」


ジャックは手を叩いて大笑いする。

やはり仮装用の衣装は所詮仮装用。魔物に変装出来るまでの完成度は無かった。


「…………キョウスケ、耳だけにしておけ」


「そうだね……」


キョウスケはグレイの忠告に従って、そっと黒装束と付け鼻を取り、そっとバックパックの奥に直し込んだ。


「うん……まあ耳だけならゴブリンに見えないこともないな」


「ヘッヘッ、オイラはあの黒装束でも愉快で良かったけどな」


それでもまだ足りない感じはしたが、一先ずキョウスケの変装はこれで落ち着く。


「そんでグレイ、キョウスケ、エキドナの遺跡はどうするんだ?」


ジャックが二人に尋ねると、先に答えたのはキョウスケの方だった。


「僕はせっかくシンアルに来たんだし見てみたい気持ちはあるけど……グレイどうする?」


「フン……どうせダメと言っても聞かないんだろ?なら行くしかないだろうよ」


「ヘッヘッ、じゃあ決まりだな!遺跡はこの街の南側にあるらしいから早速行こうぜ!!」


ジャックは笑いながら二人を案内するように、先頭を歩く。


「一体何を思って遺跡へ行こうなんて言い出したのか……悪巧みしてなきゃいいけどな」


「さすがに元盗賊でも白昼堂々に盗みはしないでしょ……気にし過ぎだよグレイ」


「……だといいがな」


グレイは案じ、キョウスケはそんなグレイをなだめながらジャックの後ろを歩く。さすがは観光名所として紹介されているだけあって、遺跡が近づくにつれ、周りの魔物の数は増えていった。

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