006【2】

「それとキョウスケほれ、お前の鞄も取り返しておいたよ」


ジャックは見張りの兵士から奪ったバックパックをキョウスケへ返す。


「ありがとうジャックさん!」


母親から渡された大切なバックパック。それが自分の手元に戻って来てキョウスケは一安心した。


「よし……見張りが来る前に脱出するぞ!」


「まあまあそう焦らないでさ、ゆっくり行こうよ」


血気に逸るグレイだったが、それでもジャックは落ち着いてグレイに諭すように言う。


「ゆっくりって……兵士が来たらどうするんだ!?」


「まあまあまあまあ、こっちに来たらその理由も分かるさ」


ジャックはいつもの笑い声を出し、キョウスケとグレイの二人を地下牢の出口へと誘う。

まだもうひと芸残っている。そんな雰囲気をジャックはかもし出していた。


「こ……これは!?」


グレイは驚愕する。

地下牢がある部屋を出ると、そこでは親衛隊の兵士達が全員倒れていたのだ。


「ヘッヘッ……どうだい驚いたかい?」


「こ……これジャックさんが全部やったんですか?」


「まっそういうこった」


唖然としているキョウスケに、ジャックは鼻高々に自慢する。


「……といっても死んじゃいないよ?眠りのお香を数個焚いてやったらものの見事に全員眠りこけちまってなぁ、みんな疲れてたんだろうさ。アスタロトってヤツはよっぽど魔物使いの荒いやつなんだろうねぇ」


ジャックは笑いながら、気の毒そうに言う。

それでもここに倒れているのは全て魔王の側近の兵士達。それをすべて生け捕りにしたジャックの能力は評価するものがあった。


「フッ……さすがは魔界の有力者どもから金品財宝を巻き上げてるだけのことはあるな」


「ヘッヘッ、魔王様直々に魔界中で指名手配されてるあんたには敵わんよ」


倒れて眠っている兵士たちを足でまたぎ越しながら、三人は親衛隊の駐屯施設の出口に向かって歩みを進める。


「……俺のこと知ってたのか?」


「さっきの餓鬼を追っ払った後、少し調べさせてもらったよ。ケルベロスさんのことも、そしてデビルサモナーシュンジのこともな」


「父さんのことを?」


ジャックの言葉に、キョウスケは反応する。

キョウスケが物心つく頃には、父親のシュンジはこの世にはいなかった。だからキョウスケは父親のことをこれまであまり知らずに生きてきた。

知っていることと言えば、母親のカコから聞いた人間の世界にいた頃のシュンジのことだけだった。


「キョウスケ、もしかして自分の親父がどんな人だったのか知らないのかい?」


「うん……というより、父さんがデビルサモナーだったってことすらグレイと会って初めて知ったんだ。だから父さんが魔界で何をしていたのかとか、まったく分からないんだ」


「そうかい……んじゃあ後からたっぷり話してやっからな。別に話してもいいだろうケルベロスさんよ?」


ジャックはグレイに尋ねると、グレイは二つ返事をする。


「あぁ別に構わん。それと俺の事はグレイと呼んでくれ」


「そうかいそうかい、んじゃあグレイさんのお墨付きももらったし、さっさと市街地にトンズラしちまおうぜ」


気がつくと三人は駐屯施設の外にまで出てきていた。

すっかり眠りこけた兵士達を後にし、三人はアンダーグラウンドの市街地へと歩みを進める。

キョウスケとグレイが脱走したことに親衛隊の兵士達が気づいたは、彼らが駐屯施設を去ってからその僅か三十分後のことであった。

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