001【3】
「ヘッヘッ……こりゃ一本取られちまったなぁ。確かにお前さんと契約したらオイラにも魔技が使えるようになるかもしれねぇ」
「じゃ……じゃあ!」
「おっと!ちょいと早まるなよキョウスケ?オイラは何年もの間こうやって自由気ままに盗賊をやってきたんだ。その自由も魔技と同じくらい捨て難いのさ」
ジャックはこれまで一人で自由気ままに、魔界の様々な場所を旅してきた。時には物を盗んだり、盗み返したりしたがそれも気まぐれでやっていた。
だがキョウスケに着いて行くとなると、そんな自由は無くなってしまう。
契約した魔物は、そのデビルサモナーと一緒に行動しなければならなくなるからだ。
力と自由。天秤にかけてもどちらにも偏ることがなく、ジャックは迷っていたのだ。
「だからよ、もうちょっと様子を見させてもらうとするよ。お前たちの旅にオイラの見出すものがあればそのときゃあ仲間になるかもしれねぇな」
そう言い残して、ジャックは立ち去って行く。
キョウスケは決して追いかけることなく、ジャックの背中が見えなくなるまでその方向を見ていた。
「フッ……惜しいやつを仲間にしそびれたな」
グレイがそう言うと、キョウスケは首を横に振る。
「いやグレイ、どうせジャックさんを今追いかけても仲間になってはくれないよ。だけど考えてはくれてるみたいだったから、僕たちがそれにそぐうことをしてればいつか仲間になってくれるさ」
「……そうか。お前がそう感じたのならそうなのかもしれないな」
魔物とデビルサモナーとの契約はそれほど慎重にならなければいけない。
それをキョウスケは身をもって実感したのだった。
「さて、じゃあ情報集めと行こうか。さっさとデモンズスクエアに行く方法を見つけないとな」
そう言って、グレイは先を歩き始める
「そうだね、それじゃあミレイ行こっか!」
「う……うん」
キョウスケはミレイを連れて、共に歩む。
だがミレイには少しずつだが、キョウスケとの間が空いてきているような気がしていた。
どんどん先を進んで行くキョウスケに対して、何もできずただ見守ることしかできない自分。
何かしたい、してあげたい。だけど自分にはその力がない。
ミレイの中で渦を巻いていた葛藤は、更に大きさを増していた。
「ねぇキョウスケ……あたし邪魔になってないかな?」
「邪魔?なんの?」
「あんたの旅の邪魔よ……あたし戦えないし、なんだか足を引っ張ってる気がして。さっきだって何もできなかったし……」
俯くミレイに対して、キョウスケはミレイの手をぎゅっと強く握る。
「何言ってるんだミレイ!そんなわけないよ!僕一人じゃ多分怖くて魔界にも来れなかったし、さっきだってミレイはジャックさんを怪しいかもしれないって教えてくれたじゃないか」
「でもそれだって間違いだったじゃない……」
「うっ……でもそれくらいの間違い誰でもあるよ。ジャックさんだって本当に良い人なのか分からなかったんだし」
キョウスケは必死にミレイをフォローする。
だが、そんなキョウスケを見てミレイは益々自分の無力さと、キョウスケを困らせている自分に腹が立ってくる。
何をやってるんだ自分はと。
「だああああああ!!!キョウスケ!あんたがそうやってあたしを甘やかすからあたしはつけ上がっちゃうのよ!!」
「えっ……えぇ……」
あまりにも理不尽なミレイの怒りに、キョウスケはたじろぐ。
だがその怒りはその場しのぎ。ひと時でも自分の中に渦巻く葛藤から逃れるために爆発的な感情を使う、ミレイなりの逃走反応だった。
「ほらキョウスケ!さっさと情報集めるわよ!!ちんたらしないで歩く歩く!!」
ずいずいずい、とミレイは先にいたグレイをも抜かして、アンダーグラウンドの市街地を歩いて行く。
「な……何でミレイあんなに怒ってるの?」
呆然としているキョウスケを背後に、グレイは鼻で笑った。
「フッ……女心は秋の空。そういうことだよキョウスケ、分かってやれ」
そう言って、先を歩くグレイ。
「分かってやれ?どういうこと?」
頭の中が疑問符でいっぱいになるキョウスケだったが、二人に遅れぬようその場からゆっくり歩き出す。
小学六年生のキョウスケはこの答えを理解出来なかったが、いつか理解する日がやってくるのだろうか。
いや……もしかしたら二度とその時はやって来ないかもしれない。
鈍感なのは、いろんな意味で罪深いものだ。
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