友
「さぁ、明日香様。ボクチンと明日香様自身の為にこの世界を消し去りましょう」
「やめて、私は」
「まだ自分の欲を抑え込むつもりですか?」
「おい、観測者。なぜこの女にこだわる?
そうですよ。この女性は魔王の力を拒んでいる。
その様な人間に僕らが力を貸す理由は無いよね?
我々の意見は一致しました。
だから君には消えてもらうよ」
並行世界の明日香は右手を小さな炎で包みこちらの世界の明日香の首元目掛けて腕を伸ばした。
「駒の分際で勝手なことをするなぁ!」
「それが本心か」
その声にヒブラ・ハクジャは目を見開いて驚いた。
「弟君、だとぉ! 貴様らぁ! 魔王を名乗っておきながら人一人消すことが出来ないとは、使えぬ駒共がぁ!」
「クックックッ。こんな時に仲間割れとは、勝利の女神は真の魔王に微笑んだようだな!」
その声は、
その声は、僕の口から無意識に発せられていた。
「叶わぬ夢だと思っていたが、まさかこのような形で実現するとは、この恩は仇で返させてもらうぞ。ヒブラ・ハクジャ」
「その声」
「その口調は」
「並行世界の私?」
自分の中に自分ではない人格があるという感覚はとても不思議で言葉にするのが難しかった。
「いかにも。時に我が半身、武道の力はまだその身に刻まれているか?
当たり前だよ。何千回姉ちゃんの相手をしたと思っているのさ。
そうであったな」
今まで見る側だった1人コントをやっているとこちらの世界の姉ちゃんが可哀想な人を見る目でこちらを見つめていた。いつもの姉ちゃんそのまんまだから。
「黙って聞いていれば。
君たちは私たちを倒せると思い込んでいるようですね。
ただの人間が僕たちに勝てるはずが無いのさ」
「ただの駒とはいえ、今の明日香様は勇者を葬った魔王の力を持っている平和ボケした世界に生きる力の無い君たちに敵う相手ではなぁい!」
姉ちゃんを助けるために生かしてもらったとはいえ、手から炎を出すような常識離れした相手を攻略する術は彼らの言う『ただの人間』である僕らにはない。
「うっわぁ~ ちょっと見ない内に混沌としているね~ こんなの相手にするなんてちょっとした冒険だ」
「な、夏海?」
きらりと青く光る指輪をつけた夏海が必死に笑顔を作りながらグラウンドへやって来た。
「大切な友を救うためこの手が届く範囲で手を伸ばす。さぁ、最初からノリに乗って行くぞ!」
「イッキーではないか」
きらりと赤く光る指輪をつけた樹が必死に自分のノリを作りながらグラウンドへやって来た。
「あなたは闇の底に堕ちたボクを笑顔にしてくれた。だから今度はボクがもっと君を笑顔にするよ」
きらりと黄色く光る指輪をつけた一茶が姉ちゃんの顔を見ながらグラウンドへやって来た。
「何事かと思えば」
「ボクチンたちを見て一目散に逃げた君たちがこんな所へ何の用かな?」
ヒブラ・ハクジャが夏海たちにそう尋ねた途端、一気に空気が変わった。僕はその空気が嫌いではなかった。
「怖い感情に支配されているのに友達の為にお疲れさん」
「夏海ちゃんたちの勇気は」
「自分たちがお借りします!」
「みんな」
もう二度と会えないと思っていたから嬉しくて涙が出そうだった。でも、僕の脳は涙より笑顔を優先させた。
「切り札は常に我の所にあるようだ。
姉ちゃん、みんな! 派手に行くよ!
さぁ、汝らの罪を数えよ」
「俺たちは最初からクライマックスで行くぜ!」
「さぁ~て、ショータイムだよ~」
「ノリノリで行こう」
格好よく決まれば良かったのだが、僕らの何処かで聞いたことがある決め台詞は上手く揃わず、相手の目の前で言い争いが始まった。
「やかましい!」
魔王たちは声を揃えてそう叫び僕らに向けて1兆度とはとても言えないがそれなりに高温の火球を放ってきた。
それがいけなかった。
火球は運よく僕らの間を横切って僕らの背後で大きな爆炎が上がった。その光景はまるで特撮番組の名乗りを彷彿とさせて、毎週欠かさず特撮番組を視聴している僕ら5人のテンションは最高潮になった。
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