第4話 色々あって
「あらあら。どうしましょう」
いつものように優しく目を細め、灰の山になった
(のんきだなぁ)
しかし、
(救急車を呼べばいいのかな……? いや、灰を見せられても困っちゃうか。……神父さんとか。……ダメだ、吸血鬼と神父さんは勢力的に真逆のような気がする。なんだろう。もっとこう、悪魔的な儀式みたいな。
灰の山は本当にただの山で、元の身体の名残はどこにも見えません。
「どうするドラ?」
「うーん。どうするお姉ちゃん?」
「どうしましょうねぇ」
眠そうにあくびをする
「台所」
「え?」
「台所、いい?」
「うん(何するんだろ?)」
つい頷いてしまったので、
「……ねぇ、香」
「大丈夫」
安心させるように頷き、香さんはちりとりからボウルへと灰を移し、蛇口から水を注ぎました。
「まず、こねてまとめる」
素手でボウルの中身をこねくり回します。次第に水と灰は馴染み始めペースト状に。それをさらにこねくり回すと、白い灰は粘土のような塊に変わっていきました。
「……こんな感じ」
指でつついて感触を確かめ、香さんは塊を木のまな板の上に置きました。
(……なんかこうしてみるとうどんの生地みたい)
素直な感想を抱きながら、彩七さんはぼんやりと作業を見守ります。
「で、延べ棒で生地を適度な厚さに……そして包丁で線状に切断。細くしすぎないのがポイント」
「あー、かなりうどんぽいわね」
白い塊は
次に香さんはふたつの鍋に水を注ぎ、コンロで火にかけ始めました。
「
「うどんなの? これ(もう
「正解はCMのあと。で、色々あって出来上がったのがこれ」
香さんがくるりと食卓のほうを振り向くと、彼女の両手には丼の載ったお
「……って、やっぱりうどんだったじゃない。正解したけど賞品は?」
「え。……うどん?」
「あー、じゃあ気持ちだけで(いつの間に出来たんだろう?)」
歓迎会の料理が沢山あるので丁重にお断りすると、香さんはお
「もにゅもにゅ……うーん、ちょっとコシが足りないドラ」
「無念。うどんの道は険しい」
「
「なるほど。他には?」
「生地を寝かせる時間がなかったのも問題かも(そもそも材料に問題があったかも?)」
思わず彩七さんはまじめなアドバイスをしてしまいましたが、事態はまったく解決に向かっていません。正真正銘、ただの箸休めです。
「それで? 香はこの元八美夜さんをどうする気なの?(廃棄?)」
「冗談。料理しない」
「じゃあ、八美夜さんは?」
「ん」
香さんの視線からなんとなく背後に気配を感じ、後ろをちらり。
そこには、身体も服も、何もかもが元通りになった八美夜さんが立っていました。
「八美夜さん? 大丈夫ですか?」
「大丈夫です……。私、不死なので……!」
「そういう問題なんですか? さっき灰みたいになってましたけど……」
「はい……。不死なので……!」
八美夜さんが今日一番自信に満ちた表情で頷くので、
(いや、不死っていうか死んでましたよねあれ)
という野暮な言葉はしまっておくことにします。自己申告は尊重してあげたいものです。
「吸血鬼には強力な自己再生能力があるんです……!」
人差し指を立てながら少し得意げに説明する八美夜さんの言葉を聞いて、
「へー、つまりは食べても食べてもなくならないってことドラね……」
なるほどなるほどと烈火さんは頷きながら、美味しそうだと言わんばかりに舌舐めずりしています。
「……ドラさん? 念のため言っておきますけど、再生するからって八美夜さんを食べちゃダメですからね?」
「は!? ち、違うドラ! 食べ放題だなんて全然思ってないドラ!」
「よだれダラダラですよ?」
「違うドラ! 三割七分くらいしか思ってないドラ!」
「結構な率ですね。首位打者待ったなしって感じが」
「ぜ、全部とは言ってないドラ! ひと口ぐらいなら……」
「ドラさんひと口が大きいからなぁ……」
「ちょっと、ちょっとだけドラ! モツをちょっとドラ!」
「モツって内臓のことですよ?」
「じゃ、じゃあ、ハツにするドラ!」
「ハツは心臓なんで流石にダメじゃないですか?」
「んー、じゃあカツにしとくドラ!」
「揚げるとき油跳ねて危ないですよ?(あと油の処理もちょっと面倒)」
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