第3話 テレレレンテッテッテー(レベルが上がった音)

「変な語尾……? と、ということは……!?」


 烈火れっかさんをちらり見やる八美夜やみよさん。遅まきながら、ようやく誰が人間ではないか気づいたようです。

 すると、


「ドラ! ドラはドラゴンのドラだドラ!」


 烈火さんはうざったいくらいのドヤ顔で胸を張りました。烈火さんいわくドラ顔です。

 彼女がドラゴンという自分の種族をとても愛していることを、彩七あやなさんはよく知っていました。どれくらい愛しているかというと、[どら]とか[りゅう]という音を聞いただけで、目を輝かせて食いついてくるくらいです。さっきこうさんが劉備元徳と言ったときも、キラキラの目で香さんたちのほうを見てきていました。


「そ、そんな、ドラゴンなんているはずないじゃないですか……。からかっているんですね……?」


 いやですねもぅ……と八美夜さんは愛想笑いを浮かべます。


「ドラぁ、吸血鬼に言われたくないドラぁ」

「すごい。ドラさんが珍しく正論を(ほっぺた膨らませちゃって。可愛い)」


 彩七さんは思わず拍手したくなるも、嫌みっぽくなってしまいそうなので止めておくことにしました。


「そ、それは……かもしれませんが……」

「鴨じゃないドラぁ、ドラゴンだドラ!」

「そ、そうではなくて………な、何か証拠はあるんですか……?」

「証拠ドラ? もっちろんあるドラ! この語尾のドラこそドラゴンの証ドラ!」


 えっへんと自信満々な烈火さんでしたが、彼女以外にドラゴンの知り合いはいないので、彩七さんにも正直なところよくわかりません。


(ドラゴンの語尾がドラ。……ちょっと安直ですよね?)


 烈火さんのせいで慣れてはいるものの、そう思わない日はないです。


「ドラさん」

「ドラ?」

「本当にドラゴンてみんな語尾がドラなんですか?」

「んー、都会のドラゴンは大体そうドラ」

「じゃあ、田舎のドラゴンは?」

「えーと……ズラ?」

「あー。確かに田舎っぽいかも(多分今考えたんだろうなぁ)」


 本当に烈火さんは適当です。彩七さん的には、烈火さんが人間だろうがドラゴンだろうがどうでもいいのですが、どうやら八美夜さんはそうではないらしく……。


「そ、それ以外に何かないのでしょうか……?」

「語尾以外ドラ?」

「そうです……」

「んー、あるにはあるドラ……」


 そう言って、烈火さんは指でほっぺたを掻き、ちらりと春七はるなさんの顔色をうかがいました。


「烈火ちゃん? 弱火でお願いね?」

「ドラ! 合点承知の助ドラ!」


 春七さんの許可を得て、嬉しそうに頷く烈火さん。


(もう、お姉ちゃんてば甘いんだから)


 彩七さんはしみじみ思いながら、少しだけ椅子ごと後ろに下がります。怪我をしたくはありません。


「よく見るドラよ?」


 八美夜さんに告げると、烈火さんは小さく息を吸って口を閉じ、食卓とは反対方向、誰もいない方角を向きました。

 そして、口を開けて咳をするように軽く息をはくと。

 ぼふっ。

 と、彼女の口から小さな可愛らしい炎が噴き出し、一瞬で宙に溶けていきました。僅かに室温が高くなったように感じられるのは決して錯覚ではなく、そこに炎が存在した証拠です。


「どうドラ? こーれが証拠ドラ!」


 烈火さんはイシシと自慢げに白い歯を見せました。口から火を噴くという行為は、確かにとてもドラゴンらしい芸当です。人間にはタネや仕掛けがなければ出来ませんし、トカゲにだって出来ません。


(……よかった。火災報知器は反応しなかったみたい)


 彩七さんが軽く天井を確認するのをよそに、春七さんと香さんはパチパチと拍手。

 これを受け、一体どんな反応をするのだろうと八美夜さんのほうを見やると。


(あれ?)


 何故か彼女は瞬きもせずに固まっていました。


「ドラぁ、ちょっと大袈裟すぎるドラ」


 驚きすぎだと、烈火さんがご機嫌スマイルで八美夜さんの肩をバシッと叩きます。

 すると、


「ドラ……?」


 まるで砂のお城みたいに……いや、まるででもみたいにでもなく。八美夜さんの身体は、砂のような小さな白い粒子になって、サーッと崩壊するのでした。

 椅子とフローリングの上に出来た白い山。

 彩七さんたちが近づいてその山を指で触ってみると、砂というよりは灰のような感触がしました。一粒一粒がとても小さいからか、指触りはどこかしっとりしていて、なんだか不思議な気持ちよさがあります。


(確か吸血鬼って死ぬと灰になるって小説か何かで読んだっけ? というか服まで灰になっちゃうんだ。へー)


「流石ドラゴン。一撃必殺」


 香さんがポンポンと烈火さんの肩を叩き、やるぅと褒め称えます。一仕事終わったあとの労い方です。


「ち、違うドラ! ドラの本気はこんなもんじゃないドラ!」

「予期せぬ会心の一撃。経験値は?」

「……言われてみればレベルが上がったような気がするドラ」

「りゅうがみねれっかは レベルが あがった。ちからが 3ポイント あがった。すばやさが 3ポイント あがった。さいだいHPが 4ポイント あがった」

「やったドラ!」

「起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ては……くれないみたい。残念」

「むー残念ドラ……」


 唐突に始まったふたりのドラ●エごっこ。


(あ、ドラゴンだからってこと?)


 そういうことかと、彩七さんはすっきりすっきり。ですが、それとは別に、一応事態を収束させる方向で動きます。


「もう、残念ドラじゃないですよ。何やってるんですかドラさん」

「ち、違、違うドラ! ドラのせいじゃないドラ!」

「いや、明らかにドラさんの炎にびっくりしたせいじゃないですか?」

「やーいやーい。人殺しー」


 彩七さんに便乗し、この状況でも普段通りの空気で煽る香さん。


「そ、そんなことないドラ! 大体、こいつは人じゃなくて吸血鬼ドラ!」

「そっか。訂正。……やーいやーい。人でなしー」

「ドラ!? だからぁ、ドラも人じゃないって言ってるドラぁ!」


 さっきからそう言ってるのにぃ!と、烈火さんはほっぺたをぷくっと膨らませて拗ねるのでした。


(子供っぽくて可愛いなぁ……)

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