邪魔者は殺す ~after the destroy world~
@idarimaki
CHAPTER―1
暗い海に浮かぶ潜水艦の甲板に小さいライトに照らされた大勢の黒い影が動き回るのが見えた、クリスティーナは今暗闇の中にあるアイオワ級潜水艦の甲板に立ちメイソン艦長の話を聞いている、船体に当たる波しぶきが風に乗り顔を濡らしブロンドの髪が額に張り付いた。
「君たちはいつも通り調査を行ってもらう、現地の調査員の連絡によると、大戦時に作られた地下壕を発見したらしいということだ、調査員に合流し地下壕の調査を行ってもらう、そして大戦時のテクノロジーを確認しだい発信機で我々の報告をするんだ」
メイソン艦長は言いながらポケットからタバコの箱と同じ大きさの通信機をクリスティーナに渡した、通信機には周波数を合わせるダイヤルと通話ボタンだけのシンプルな物であるが衛星を必要としない長距離通信機だ。
受け取ると腰のケースの中に入れ敬礼をした。
「了解しました」
すると艦長が握手を求め右手を差しだした。
「気をつけるんだ、クリスティーナ少尉」
「わかりました。艦長」
握手に答え後ろを振り返った、後方では研究部が今まで行った調査で回収した図面や部品などの資料により復元し改良されたヘリコプター、UH―60 Rが大型ライトで闇に浮いているように照らし出され並んでいる、そのうちの一機がエンジンを唸らせていた。
その前に現地住民に溶け込むためボロボロになり砂埃で汚れているように見える擬装された戦闘服を着た四人が立ちクリスティーナが近づいていくと左端の一番年長の男がいった。
「少尉、準備できました」
男は黒人で髭を伸ばして髪の毛はぼさぼさの状態であった、手には現地で多く出回っているアサルトライフルAK―200Rを我々の技術で改造してあるものを持ち足元に荷物を転がしていた。
「ご苦労、マイク軍曹、しかし今からお互いに呼び合うとき階級を名乗るな」
「すいません」
マイクはそういうと荷物を持ち上げベルトを肩にかけた。
「行くぞ、準備はいいか?」
クリスティーナが言うと他の三人が荷物を持ち上げた。
「少尉、これからなんと呼べばいいですか?」
マイクの隣にいたオースティンが黒に染めた前髪をいじりながらいった、オースティンやクリスティーナ、他の兵士のユルバン、ワルテも本来は金髪やブラウンなどの髪の色をしているのが今回の調査地ではそのような髪の毛の者が少ないため黒く染めている。
「クリスでいい」
「わかりました」
ユルバンがドアを開けUH―60R乗り込むと、次々に荷物を放り込みながら乗り込みクリスが最後に乗り込んだ、何回乗ってもエンジン音がうるさく耳が悪くなりそうで好きになれない、機内を見渡すと他の者は全員準備が整っていた、クリスが荷物を置きドアを閉め、体を固定するのとほぼ同時にパイロットが叫んだ。
「準備はできたか?、離陸するぞ」
「いつでもOKだ」
こちらも叫ぶとパイロットは正面を見た、ドアについている窓から外を見ると外で艦長がこちらに敬礼をしていた、見えていないだろうが敬礼をするとヘリが浮かび上がり水平にすべるように飛行を始めた。
周りに何もない海に潜水艦だけが浮かびその上を人が動き回っているのを見ていたが段々距離が離れ小さくなっていった。
2130年代某国の核ミサイル発射が引金になり戦争が起きた、そのとき核爆発が起きたのは戦争を始めた国の間に存在している国の日本だった、核爆発により高層ビルや道路を行き交う人々が爆風で飛ばされ身体を打ち付け血を流し大勢死ぬ映像が世界を駆け巡った。
爆発は核ミサイルで狙われたアメリカが自国を守るためにミサイルを迎撃した時に爆発したことがわかり各国がアメリカを非難したが、アメリカは自国民のために行ったことで間違っていないと声明を発表した。
アメリカは核戦争の対策として考えられていた計画で秘密裏に建設された北極基地のシェルターに選ばれた人が送られた、200年は本国からの暗号通信がない限り出てこないということになっていた。
シェルターに避難した人々は三年くらいで出れるだろうと思っているものが大半であったが、10年、20年が立つと誰も外がどうなっているかいわなくなった。200年後にシェルターから出た人々はシェルターに入る時に使用した潜水艦に乗りアメリカに戻ったのだがそこには文明の残骸しかなく浮浪者のような人々しか居なかった。
北極のシェルターに戻りアメリカ再建を行うために組織されたのがアメリカ合衆国再建部隊である。
任務はアメリカ合衆国の再建に必要な人材、技術を集めるのと同時に世界がどうしてこのような状態なっているかを探ることにある。
それから三十年の間再建のためヨーロッパ、アジアの調査したがどの地域も文明が崩壊しているようだと報告がされている。成果は最悪で、世界はそれほど破壊されていたのであった。
クリスは今回が3回目の現地調査であった、旧アメリカを二回調査した後アジア方面に回されてきた、旧アメリカ大陸で二回目の調査で現地住民にまぎれた調査員と共にインディアンに戻ったような浮浪者に銃で撃たれ仲間が二人死んでしまい、調査では成果が出ずアジアに飛ばされたのだろうか?、今回の偵察は現地で先に偵察している仲間が発見した報告があったものを我々が確認し本部が回収をするかしないかを決めるのが任務だ、今までクリスが行った偵察任務も同じだったが壊れて錆び付いて調べても何もわからないものばかりだったが今度こそ何か発見できるといいなと窓の外の星明りで水面がきらめく海を見ながら思った。
アジア方面の調査も進んでいないわけではないが現地の人と姿が違いすぎてうまくいっていないのが現状だ、だが戦争のため地形が変わったのか常時小さな砂が風にのり舞い上がり目や口に入ってしまうためマスクとゴーグルをしていなければならない環境だ、サンプルとして採取された砂からはかすかに放射能の反応が検出されておりアジアでは核兵器が使用されたのではないかと考えられている。クリス自身の考えはアメリカに核が撃ちこまれアメリカが壊滅されたが、アメリカ軍の基地は世界中にあるため原子力空母や原子力潜水艦がアメリカを攻撃した国に報復で核ミサイルで反撃され破壊されたのだろう、他の国がどうして滅んだかはやはりわからないが原子力潜水艦や原子力空母も食料がいつまでも持つわけではないためずっと航海をしているわけにはいかないので世界各地の基地の港に停泊しなければならない、だが三十年の間に調べた基地には我々が資料として知っている潜水艦や空母、トラックなどの残骸が朽ち果てた状態で見つかった。
残骸から技術を復活させるため開発部が設立されたが失われている技術に差があり解明は進んでおらず何もかも説明が付かない状態であった。
「陸が見えてきた」
マイクの声が聞こえ窓から外を見ると暗闇の中にぼんやりと陸地が見えてきた、オースティンが陸地を見ていた顔を戻して尋ねてきた。
「どれくらいで目的地に着くんですか?」
「予定では0400に到着予定だ、ヘリで目的地周辺に下りて移動する、そうすれば夜明け前に誰かに見られる心配も無く安全に目的地にたどり着ける」
オースティンは何も言わずに外に顔を向けた、オースティンはマイクと一緒に一回現地で調査を行ったことがあるらしいが戦闘のようなことも成果も無く終わったらしい、マイクは今まで五回現地に調査を行い浮浪者どもとの戦闘も行っており破壊された乗り物や使えなくなっている銃を発見した成果をあげている事を潜水艦の中で渡された資料の中に貼られた写真と一緒に書かれていたのを覚えている。
ユルバンとワルテは今回の調査が始めてで陸地が見えたといわれるとそれぞれの武器を点検したり弾が入っているか確認を何回も繰り返し行っていた、その様子を見るとクリスも自分が最初に調査に向かった時は同じ様な事をしていたと思い出し少し懐かしい気分になった、注意をしようかと思ったが不安が和らぐならそのままやらせておこうと好きにさせた。
ヘリが陸地の上を飛び始めた頃外を見ると木が生え森のようになっている上を飛び遠くに山のような陰が闇の中にうっすらと浮かび上がっているのが見たがほかは暗闇にとけ何も見えなかった。
「もうすぐ降下地点です」
コパイロットが振り返りこちらを見ながら言った、クリスは自分の腕時計を見ると0354であった。
「降下準備をしろ」
いうと隣にいたマイクが繰り返した。
「降下準備をしろ、忘れ物をしても誰も持ってきてはくれないんだぞ、わかってるな」
言いながらユルバンとワルテを軽く笑いながら叩いた、ユルバンは少し笑ったが、ワルテの方は頷いているだけだった。
その様子を見ていたオースティンが自分の準備をしながらワルテの肩を叩いた。
「緊張してるのか?もし銃撃戦になっても間違って俺を撃つなよ」
オースティンは冗談のつもりで笑いながら言ったがワルテは降下の準備をしている手を止めオースティンに掴みかかりオースティンが後頭部を打ち付ける鈍い音が聞こえ、慌ててユルバンとマイクが止めに入り二人を引き離した、マイクが二人を注意しているのが見えたが、クリスはその様子を見て先が思いやられ思わず溜息をついた、マイクが近づきクリスにだけ聞える声で囁いた。
「あいつ等はできるだけ二人だけにしないほうがいいみたいですね、オースティンは冗談のつもりだったんですが、ワルテの方は馬鹿にされたと思っているみたいで困ったもんですよ」
「マイク、次にあいつ等が騒ぎを起こしたら潜水艦に戻り次第すぐに謹慎処分にする、人数が少ないのに互いに協力できないなんて回りの人間にとって危険だからな」
マイクは頷いた。
「そうですね、言い聞かせておきます」
クリスはオースティンとワルテを見るとオースティンはつかまれた服の皺をなおしていて、ユルバンがワルテと話していたが内容まではわからなかった。
クリスは偵察用に開発されたさまざまな機能が付いたゴーグルと粉塵を防ぎながら水分補給の為にボトルから水を飲むことができるように開発された口と鼻を覆うような黒いマスクをつけた。
「着陸します、捕まってください」
パイロットが言うとクリスが近くのパイプを掴むより早く内臓が浮き上がるような降下する感覚がした。
着陸すると共にクリスはドアを開けすばやく降りるとAKを構えながら周りを見渡した、着陸地点はUH―60Rの風圧で砂埃が舞い上がるのが見えヘリからマイクたちが次々に下りた、全員が降りたのを確認しクリスはパイロットの近くの窓を叩き合図をするとパイロットが頷くのが見えた。
急いでUH―60Rから離れると浮かび上がり飛んで来た方向に飛び去って行った。
クリスは人数を確認し腕にはめているタッチパッドを叩くとゴーグル右上にアイコンが表れその中の通信を選んでマスクの下で呟いた。
「クリスだ、全員聞えるか?」
「マイク、OKです」
「オースティンOK」
「ユルバン、OK」
「ワルテ、OK」
マスクをつけているため会話が困難なためにマスクに骨伝導イヤホンが搭載されて会話ができるようになっている。
「速やかに移動し現地調査員と合流する、マイクを先頭にワルテ・ユルバン・オースティン・私の順だ、位置は分かっているな?」
マイクは空を指差しながら答えた。
「もうすぐ明るくなってきますが今なら星が見えるので大丈夫です、明るくなれば太陽の位置で確認できます」
そういうとオースティンに一声かけてから歩き始めた、クリスが周りを見ると辺りには明かりのようなものもなく、ただ木と草が生茂っているだけで、人が近くに居るような気配もまったく無かった。
しばらく歩くとあたりは明るくなり遠くのほうに人が住んでいるかわからないが家のような建物も見えてきた。
ヘリを降りてから歩き続けていたので周りが岩場になっている場所で1030時から三十分の休憩を取っていた、位置を確認すると目的地まであと数キロだった。
クリス達は岩に背を向けるようにして座り水筒を取り出してマスクの給水用の穴に水筒の先のストローを挿して水を飲んでいた。
クリスは左腕のタッチパットを使い現地での調査員との合言葉を確認した、写真で調査員の顔を確認できればよいのだが我々が死んだときに浮浪者どもに情報流出を最小限にするため調査員の顔写真は確認できないようになっていた。
現地の調査員の性別は男性で名前をルーカス・カナハンといい元は我々と同じ潜水艦に乗っていたのだが艦内での暴行事件、任務中の失敗で追放ということになっているが、テクノロジーの発見をしたらしくそれを取引に使い自分を潜水艦へ戻れるようにしろと取引を持ちかけてきたようだ。
予想通りのテクノロジーが回収されればルーカスも一緒に潜水艦へ連れ帰る事に任務はなっていたが予想以下のテクノロジーだった場合はそのまま置いていくことになっている。
マイクたちはマスクを外し携帯食の栄養バーを取り出しそれを食べているが、風が吹くと砂埃が舞い上がり風に運ばれてくる砂も一緒に食べてしまうらしくあまり地面に何度も唾を吐いていておいしそうには見えなかった。
クリスは南極の基地にいるフランク・キャンパーのことを思い出した、私より二つ上の31歳で気の弱い技術者で南極基地の整備を仕事にしている、小さい頃からの知り合いでもうすぐ結婚をする予定だ。
フランクは結婚したらクリスが今の仕事を辞め安全な仕事についてくれというが、クリスはまだこの仕事を続けたいので喧嘩をしている最中であった、任務が終わったらもう一度話し合いわかってもらいたいと思っているがフランクも本気で心配していることが分かっているので思わずため息が出てしまいそうになるのを堪えて説得の言葉を考えた。
少ししてAKの銃身の中を砂が入っていそうなので掃除を行っていると遠くで爆発音が聞えた。
「何だ?」
ユルバンがAKを手に持ちながら立ち上がった。
「馬鹿、立ち上がるな」
マイクが地面に伏せながらユルバンの腰を掴み強引に引きずり倒すと鈍い音がして倒れ、クリスは地面に張り付くように伏せて言った。
「自分の武器を持って周りを確認しろ」
クリスも周りを確認した、爆発音がしてから遠くで連続した発砲音が聞えてくる。
「クリス、あれ見てください」
ワルテを見ると遠くを指差していて、そちらに顔を向けると黒い煙が立ち昇り発砲音もそっちの方から聞えてくる。
「負傷者はいません、どうやら近くで戦闘が起こっているみたいです」
マイクがマスクをつけながら言い、他の者も脱いでいたマスクを着けAKを構えた、周りを見渡したが人影も無く戦闘をしている連中が我々のことに気付いている様子は今のところ無かった。
「よし、休憩はここまでだ、目的地に向かうぞ」
言うとワルテがこちらを見た。
「放っておいていいんですか?」
「こっちは五人しかいないんだ何人いるかわからない奴らと戦闘するのは危険だ、それに目的は他にあるから関係ないなら関わらないほうがいい」
クリスの言い分にワルテも納得したように頷いた。
「先ほどよりも注意しながら進んでくれ、何か変なものがあったら教えろ」
言うとマイクたちが頷き、辺りの様子を伺いながらゆっくりと立ち上がり、先ほどの順番でゆっくりと先進した。
一時間以上歩き、岩場を抜け森に入り進んでいくと黒い煙は見えなくなり、発砲音も聞えなくなったが警戒を解かず進んだ。
「とまれ」
突然前を歩くマイクが言い全体が止まり前のほうを見ると遠くに家のような物が乱立しているのが見えた。
「住居みたいですが人の姿は見えませんね」
オースティンが腕のタッチパッドでゴーグルを操作し双眼鏡モードにして家の様子を見ている、クリスも左腕につけているタッチパッドを操作しながら言った。
「ユルバンとワルテは周りを警戒してくれ」
ゴーグルの倍率が上がり家のようなものが拡大されるとそれは錆びている鉄板と木の板を組み合わせて作ってあるがぼろぼろで強い雨や風で壊れそうだ、同じような粗末な家が見える範囲で四軒ある。
「クリス、目的地はあそこなんですか?」
オースティンの声が聞こえクリスは粗末な家々を見ながら答えた。
「あぁ、ほぼそこなんだが、見えるところに目印に星条旗のようなものを飾るという話なんだが見えたか?」
オースティンがすこし黙ってしまった。
「わかりませんね、マイクはどうですか?」
「ん・・・、わからんな、星条旗らしきものは見えませんね、そもそもそんなものがここにあるのかも疑問です」
クリスもマイクの言う通りだと思う、こんな所で星条旗をつけていたら浮浪者どもに襲われる可能性が高く危険だ。
クリスはゴーグルの双眼鏡モードをOFFにしてマイクとオースティンを見た。
「マイク、オースティン双眼鏡モードをOFFにしろ、それにユルバンとワルテも話を聞け、マイクとワルテのチームとオースティンとユルバンと私のチームの二組に分かれて偵察を行う、通信ができる範囲から出るなよ」
マイクが頷くとワルテを近くに呼んで、クリスを見た。
「私たちは左側に行くんで、クリスは右側をお願いします、
「分かった、気をつけろよ」
「はい、行くぞ、ワルテ」
「OK」
マイクが先頭を進みその後に続きワルテが歩き出した、ワルテは不安だがマイクがいれば何とかなるだろう、クリスは振り向いて残りの二人を見た。
「クリス、我々も行きましょう」
ユルバンが言いながら立ち上がりオースティンの隣に並んだ、オースティンはゴーグルに付いた砂を片手で拭いながら言う。
「先頭は私でいいですよね」
クリスは少し考えてから言った。
「私が先頭で行くからユルバン、オースティンの順で付いてこい」
オースティンは少し不満そうに声を落としながらいった。
「わかりました」
返事を聞くとクリスはマイクたちと反対方向へ歩き出した、草が膝くらいまでしかないのでなるべく低い姿勢でゆっくりと移動して行く。
ゆっくり足音を立てないように歩いていると見えていた家の奥にも同じ様な家らしき建物が存在していた、クリスはマイクたちが進んで行ったほうを見たがマイクたちの姿を確認できず、クリスは囁くように言った。
「マイク聞えるか?」
すぐに返事が返ってきた。
「聞えます」
「こちらは先ほどの四軒以外にも家を確認した、人影は・・・」
前を見て家の周りに人影が無いか探したがユルバンが口を挟んだ。
「ないようです」
クリスが睨むように振り向くとオースティンがユルバンに指を立てて勝手に喋るなと注意をした。
「そちらはどうだ?」
「こちらも家が数件あるのを確認しましたが人影はないようです、このまま進んでみます」
「わかった」
オールティンとユルバンについてくるように手で合図を送り先に進んだ、家の近くは人が生活しているためか草木が余り伸びておらず野道のようなものが数本が見つかったが、人影は発見できなかった、家の数は見た限りでは10軒程の集落であることが確認できたがどれも星条旗らしきものは見当たらなかった。
集落を回るように移動しているとマイクから連絡が入った。
「マイクです、怪しいものを発見しました」
歩く足を止め身を低くしてからクリスはたずねた。
「怪しいもの?何なんだ?」
クリスは手で二人に止まれの合図をした。
「星条旗ではないんだすが、星の形に切られた錆びた鉄板が飾られている家があります、そちらは何か見つかりましたか?」
「こちらは何も見つかってない、たぶんその家がアタリだな、そちらに向かい合流するまでその家に出入りする人がいないか見張っていてくれ」
「わかりました」
後ろにいる二人を見るとオースティンが言った。
「残念です、負けちゃいましたよ」
「負けたってどういうこと?」
尋ねると今度はユルバンが答えた。
「クリスが艦長と話していた時に四人で賭けをしたんですよ、誰が目的地を発見できるかって、報酬は一人ビール三缶おごるってね、今回はマイクとワルテが見つけたんで二人に我々が三缶づつおごることになりましたよ」
ユルバンはそういって肩を落とした。
ビールやタバコなどの嗜好品は南極基地で生産されているが自由に買うことができず、すべて支給品として配られておりビールは月に3本が配られていて、娯楽の少ない生活の中でのほとんどの隊員のたのしみだ。
「残念だな、次回は私も参加させてもらおうかな、そうすればビールを独り占めできるからな」
「どういうことです?」
話を聞いていたのかワルテの声が入ってきた、クリスは歩き出しながら答えた。
「どうしてかって、答えは簡単、目的地近くになったら君たちを待機するように命令し、自分が最初に目的地に行くようにすれば目的地を最初に発見するのは私ってわけさ」
そういうとマイクが少し笑いながら言った。
「それは卑怯すぎますよ」
「冗談だ、冗談」
複数の笑い声が聞えてきたが注意することなく進んで行った。
マイクとワルテはクリスたちに気が付くと小さく手を振り場所を知らせてきたのですぐに合流することができた、合流したマイクとワルテは砂のせいで少し汚れているようであった。
「あれです」
ワルテが言いながら指をさした先に壊れたコンクリートの家に錆びた鉄板で穴を塞いだ家があり、外壁のコンクリートに星の形をした錆びた鉄板が飾られていた。
「星の形をした板が飾られているな・・・」
あれが星条旗の代わりの物だといわれればそう見えるが、違うと言われれば違う気がする。
するとユルバンも星の形をした鉄板を見たらしくいった。
「あれが星条旗の代わりというのは難しいんじゃないですか?」
「確かにユルバンの言う通り、あれが目印だという確信は持てないな、だがあれ以外に目印らしきものはないからな、直に確かめに行くしかないな」
「待ってました」
オースティンがAKの安全装置を外しながらうれしそうに言い、ワルテがAKの安全装置を外し予備の弾倉の位置を確かめるように胸ポケットを触りながら心配そうに尋ねてきた。
「我々が行けば調査員のほうが気が付くことはないんですか?」
するとマイクが答えた。
「この姿は現地で生活している奴らに似せてある、それに調査員が使用しているのとは装備の型式も見た目も違うからすぐに気が付くことはないだろうから期待するのはやめたほうがいい」
クリスは全員が準備ができたのを確認し言った。
「私とオースティンであの家に近づき合図で調査員がいるか確認してくる、マイクとユルバンとワルテは周りで何か変化がないか警戒してくれ」
「了解しました、ユルバンは裏手に回れ、ワルテはここで私と一緒に何かあったときに援護できるように待機だ」
マイクが指示するとユルバンは音を立てないように素早く移動をはじめ、ユルバンが位置についたと連絡が入るとクリスとオースティンは家に向かって移動を開始した、集落に近づくと集落の中の様子が見えるようになり、集落の中心には井戸らしき物が見え、その周りには草がなく人が良く使うものだということがわかりどことなく生活感が感じられるのだが、人の姿は見えなかった。
「マイク、ユルバン聞えるか?」
「聞えます」「聞えます」
二人の返事がほぼ同時に聞えた、足を止め後ろを見るとオースティンが近くの家を見ていた。
「集落の中心が見えるんだが、生活感は感じるんだが人影が見あたらない、何か嫌な感じがするから注意してくれ」
「わかりました」「わかりました」
二人が返事を聞いて今度はオースティンに言った。
「オースティン、住んでいる奴らが銃を持って出てきたからといってすぐに撃つなよ」
「わかってます、そこまで臆病じゃありません」
クリスは家のほうを向き歩き始め家の間を抜け星の鉄板がある家の近くに来た、鉄板を良く見ると切り口は錆びていなく、最近切ったらしいことがわかる。
近くで見た建物は遠くから見てもぼろく錆びた鉄板で補修してあるように見えたがその錆びた鉄板もボロボロで穴が開いていた、音を立てないように玄関まで移動しクリスとオースティンは玄関ドアらしきものの左右の壁に背中をつけるようにし、いつでも突入できるように準備をした。
「これから中に入り確認する」
クリスが小さい声でオースティンを見て言い頷くのを確認すると、錆び付いているドアを強く叩いた、音と同時に赤茶色の錆が落ちる。
「誰か居ないか?」
聞き耳を立てるが反応無し、もう一度ノックをしてから同じ事を言ったが反応はない、仕方がないので合言葉を言ってみる。
「カリフォルニアの夜明けは?」
耳を澄ますが中から反応が無い、も一度繰り返す。
「カリフォルニアの夜明けは?」
反応が無い、クリスはオースティンを見てから手で突入の合図を送った、クリスがドアを思いっきり蹴飛ばすとドアは簡単に内側に倒れた、すばやくオースティンがAKを構えながら中に入った、クリスもその後にすばやく続いた。
「動くな」
オースティンではない男の声が聞こえ声のするほうを見ようと顔を動かした。
「動くなと言っている、わからないのか?」
鈍い音と共に奥にいるオースティンが呻き地面に倒れた。
「持っている銃から手を離すんだ」
「わかった」
クリスは言われるがままAKのスリングベルトを外し地面に置いた、どうやら間違った家に踏み込んでしまったようだ。
「別に怪しいものではない、単なる人探しなんだ」
「人探しがどうして銃を持って入ってくるんだ?お前もこいつの仲間か?」
クリスはオースティンを殴った声の男の方を見ると男はゴーグルにガスマスクのクリス達と似たようなものをつけていて両手に拳銃を持ち、左手は倒れたオースティンを狙っていて右手では男がこいつと言ったオースティンとは別の人を狙っていた。
「わからない、我々も会ったことがないからな」
拳銃の男が拳銃を前に突き出すようにして怒鳴った。
「自分がおかしいこと言っているってわからないのか?人に会いに来たのにあったことないっておかしいだろ?」
「ちがう、我々は頼まれて会いに来たんだ、あったことが無いので合言葉を決めて来たんだが返事がなかったんだ」
と言うとマイクの声が聞こえてきた。
「突入します、ユルバン、ワルテ準備はいいか?」
クリスは顔を動かさないように目でオースティンを見た、さっき殴られたせいで気絶をしているようでマイクの声に気が付いていないようだ、するとマイクの声が再び聞こえた。
「3、2、1」
声と共に閃光手榴弾が転がってきて爆発し脳を揺さぶるような音と光で気を失った。
「大丈夫ですか?クリス?大丈夫ですか?」
声と共に頬を叩かれるのを感じて目を開けた、頭の中で鐘が鳴り響いているような痛みがある。
声のする方を見ると視界がぼやけて一瞬分からなかったがゴーグルとマスクを取ったマイクがいた。
「どうなった?」
立ち上がろうとすると手を差し出したのでおとなしく引っ張り上げてもらった。
「死人は出ていませんし、ユルバンとワルテがすばやく動いたので一発も発砲させませんでしたので中にいた男も取り押さえて縛り動けないようにしてあります」
マイクが指差すほうを見ると床の上で両足両手を縛られた男二人がマスクとゴーグルと荷物を外された状態で床に寝かされていてワルテが見張っていた、クリスはオースティンが殴られて倒れたことを思い出した。
「オースティンは大丈夫か?」
「はい、俺は大丈夫です」
オースティン本人が返事をした、マイクが肩を叩き指をさす方を見ると誰かが突入したときにあけたドアのように大きな穴の内側から外を警戒していた。
「デカイたんこぶができましたが、大丈夫です、俺を殴った奴を尋問する時は俺を呼んでください」
「わかった、わかった、ユルバンはどこにいるんだ?」
「ユルバンは今は周りの家に動きが無いか偵察に行っています、変な様子があれば調べないで帰ってくるように言ってあります」
「わかった、すまないな」
今まで気がつかなかったが部屋の中を見るとベットや台所が見えた、埃がたまっている様子も無く最近まで使われていたようであった、拘束した二人に尋問してなにか聞きださなければならないだろう。
クリスは床に転がされている二人を見てどちらを先に尋問すべきだろうか考えた。
「近くに脅していた男の仲間がいないとも限りません、そちらを先に尋問しましょう」
マイクが言うとオースティンの声が聞こえた。
「俺がやりますよ」
「仕方がない、ワルテ、オースティンと換わってくれ」
ワルテとオースティンが場所を交代し床に寝ていた男を近くにあった木製の椅子に座らせて縛り付けた。
男はまだ気を失っているようなので言った。
「目を覚まさせてやれ」
オースティンは男の頬を手の甲で二発叩いた、すると男は目が覚めたのか、呻き声を上げ何回も瞬きをした。
「何が起こったんだ?」
オースティンがサバイバルナイフを取り出し男の頬をナイフの側面で叩いていった。
「質問するのはお前じゃない俺たちだ」
クリスが男を見ると男は二十代前半のような顔をしていた、丁度オースティンと同じような年齢だろう。
「名前は?」
椅子に座らせられた男はクリスを睨んだ。
「村を襲ったお前らに何も話すつもりはない、さっさと殺せ!」
オースティンが男の髪の毛を掴み上げ左右に振った。
「なんの事言ってるんだ!、俺たちはさっきここに来たばかりなんだ、人違いじゃないのか!?」
「じゃあ何でこの村にきたんだ?我々は盗賊に襲われ抵抗したが最後には降伏し全員を奴隷にするために連れて行ったんだ!」
男が吐き捨てるように言った、クリスはマイクに小声で聞いた。
「ここでも奴隷が存在するのか?」
「はい、何回かこの大陸には来ていますので、売っているところも見たことあります」
アメリカを調査した時も奴隷を売っているのを見たことがあった、クリスは更に情報を引き出そうと威圧てきなオースティンと対照的にやさしく男に言った。
「落ち着いてくれ、私たちは本当にお前の仲間を連れて行った盗賊の仲間ではないんだ、お前の仲間にも我々は危険でないと知らせたいんだがどうすればいいんだ?」
「俺に仲間なんていない!俺は用事があって一人で隣の村まで行って帰ってきたらみんなが盗賊に襲われ連れて行かれるところだったんだ!」
オースティンが男の髪の毛から手を離して腕を組み軽蔑するように言った。
「それをお前は何もせず見ていただけかか・・・」
「俺は拳銃と少しの弾しかもっていないのに、盗賊と戦ったって俺が死んでみんなを救えない、だから俺は盗賊がいなくなった隙を見て村に戻って武器やうまく隠れた人がいないかと思ったんだが、人の家をあさっているそいつを見つけたんだ」
椅子に縛られた男はそういって床に倒れているもう一人の男を顎で示した、マイクが座っている男を睨み言った。
「俺たちは盗賊ではない、もし盗賊だったらお前を今ここで尋問したりしてはいない、さっさと殺しているだろ?」
そういうと男もしぶしぶ納得をし始めたようだ。
「とりあえずなんて呼べばいいんだ?名前を知らない男が二人もいたら混乱する、偽名でもいいぞ」
男は考えながらいった。
「ボーエンだ」
クリスが尋ねた。
「ボーエン、お前が村に戻ってきて知らない奴がいたから捕まえたのか?」
「あぁそうだ、ここの家に住んでいるのは変わり者のオッサンでこいつじゃない、だが何か探しているようで隙があったから捕まえたんだ」
マイクが隣に来て小声で囁いた。
「この場所が合流地点ということはもう一人の男が調査員ですかね?」
クリスも同じことを考えていた、ボーエンの言ったとおりならこの家に住んでいる者が調査員だとおもっていたが、床に倒れている男はこの家のものでもなく村人でもない知らない男ということになる。
「結論を急ぐな、倒れている男の尋問が必要だな、それとボーエンの言っている事が本当か確かめなければいけないな」
クリスはオースティンにボーエンに目隠しと猿ぐつわをして喋れないようにさせ、その様子を見ていたクリスはボーエンにわかるように言った。
「何か騒いだり不信な行動をしたらその時点で死んでもらうからな、黙っていろ、わかったな」
ボーエンは大きく頷いた、マイクは倒れている男を引きずってクリスの前に持ってきた。
男は二十代後半から三十代前半のようなアジア系の顔をして髪の毛が黒く肩まで伸び無精ひげが生えてボーエンに数発殴られているのか、頬に痣ができていて乞食のようであった。
マイクが男の髪の毛を掴み左右に振り回すと男が呻き声を上げ、手を離すと髪の毛が数本床に落ちていくのが見えた。
「起きろ」
マイクが男の顔を叩いた。
男は目を開くと視線が合わないのか、周りを見渡した。
「頭が痛い」
男はそういって手を動かそうとしたが体をビクつかせた、クリスはとりあえず男に聞いた。
「名前は?」
「お前たちはルーカスの仲間か?」
男の言葉に心臓の鼓動が強くなるのを感じた、隣のマイクとオースティンを見たがマイクは平静を装っていたが、オースティンは眉間にシワが寄るように反応していた。
クリスは平静を装ってもう一度言った。
「名前を聞いてるんだ、必要の無い事を話すな」
オースティンに合図を送るとオースティンは男を倒し顔を地面に押し付けた。
「名前を言え、名前を」
男は息苦しそうに搾り出すように言った。
「チェン・ジエンだ」
「よし、チェン、なんでこの家にいたんだ?」
クリスが尋ねるとチェンはクリスを見上げながら言った。
「俺はルーカスの相棒でルーカスはよくわからないが誰かと取引をして自分が元いた場所に戻るといっていた、俺も一緒に連れて行ってくれると言ってここまで一緒に来る予定だったんだが、途中で盗賊に見つかってルーカスは流れ弾に当たって死んだんだ」
「本当か?」
マイクがチェンに尋ねるとチェンが頷いた。
「お前の作り話じゃないのか?証拠は?」
オースティンが脅すとチェンが怯えながら答えた。
「証拠はある、だがお前たちが誰なのかわからないのに大事な情報を喋るわけにはいかない」
オースティンがチェンの髪を掴み上げて怒鳴った。
「ふざけた事言ってないで、さっさと証拠を出せ!」
「こちらユルバン、クリス問題発生です」
これからという時にと思いながらクリスはチェンに背中を向けてから小声で言った。
「どうした?」
「銃を持った四人がこちらに向かってきます」
クリスがマイクを見ると話を聞いているのでこちらを見て言った。
「オースティン、ボーエンを喋れるようにして盗賊の特徴を聞きだせ」
オースティンは頷くとチェンを放り出し、ボーエンの目隠しと猿ぐつわを解いた。
「ボーエン、盗賊の服装はなんだ?」
「服装なんてばらばらだ、だが目印になるようにヘルメットに赤い何かが描かれていたと思ったんだが・・」
「ヘルメットに何か描いてあるか?」
クリスが尋ねるとすぐに返事が聞こえた。
「ヘルメットに赤い丸が書いてあります」
マイクがこちらを見た。
「チェンの話を聞くのは後にしたほうがいいみたいですね?」
「そのようだな、ボーエン、盗賊は全員で何人だ?」
クリスが言うとボーエンが立ち上がろうとしたのですばやくオースティンが足払いをし、地面に倒れると懇願してきた。
「奴らが来たのか?俺に銃をくれ、そしたら奴らを殺してやる」
クリスはボーエンを無視して全員に言った。
「ユルバン、戻ってくるんだ、他のものはゴーグルとマスクを着けろ、盗賊どもが通りすぎるかも知れないからこの家に隠れる、だが奴らに見つかり敵対行動があれば躊躇せず射殺しろ」
イヤホンから了解したという各自の声が聞こえ、クリスはゴーグルとマスクを着け、AKの安全装置を外した。
「こいつらはどうします?」
マイクが同じようにAKの安全装置を外しながら聞いた、クリスはワルテを見ながら言った。
「ワルテ、オースティンと交代して二人を監視してくれ、オースティンはワルテの場所に移動して外を見てくれ」
了解と声が聞こえ、壁にあいた穴から外を警戒していたワルテと交代してオースティンが移動して行った、するとユルバンが入り口らしきところから入ってきて来たので尋ねた。
「ユルバンどっちから盗賊は来るんだ?」
「我々が来た方向から来ています、たぶん来る途中の銃声の奴らじゃないんですか?」
「そうかもしれないな、盗賊の持っている武器は何だ?」
「見たこと無い銃で大きさからするとサブマシンガンみたいな奴です」
ユルバンは言いながらオースティンの隣に移動した。
「オースティン、そこから盗賊が見えるか?」
オースティンを見ると穴から外を覗きすぐに顔を引っ込めた。
「奴らこっちに向かって来ています、銃は見たこと無いものです」
声から緊張が伝わってきたが、ワルテが近くの木製のロッカーらしきものを倒し隠れながら言った。
「あの中に調査員がいるということはないんですか?」
「もし、あの中にいても武器を持った盗賊らしき奴らとやって来るんだ、殺されても文句は言えないだろう、それに私は死にたくないからな」
言ってクリスは近くの机を倒し穴と玄関から見たときに視界を遮り隠れれるようにし、その裏側に捕まえた男を隠し、クリスは近くの壁側に移動し、マイクは玄関近くの壁に移動した。
「隠れる所が無さ過ぎて、家の中に入られたらアウトですね」
マイクの言う通り家の中を覗かれたら見つかってしまう。
「奴らがすぐそこまで来ました」
「盗賊どもが家に入ろうとしたら撃て、生きて捕まえようと思うな」
クリスは言って外の盗賊たちの気配を探ろうとした、家のすぐ外で話す声が聞こえてきたが会話までは聞き取れない、男たちの声と共に草を掻き分ける音が聞え家のそばまで近づいていることがわかった。
クリスが玄関らしきところにいるユルバンを見た、マイクは見つからないように必死に背中を壁に押し付け外から見えないようにしていて、ワルテは木製のロッカーらしきものに隠れていて見えない、捕まえている男たちが変な真似をしないか肝が冷える。
するとオースティンとユルバンがいる穴の近くで何かが動く音と気配がし、すばやく隠れ息を止めた。
「前来たときに、こんな穴無かったよな?」
「あぁ、無かった」
「調べたほうがいいか?」
「いや、どうせ動物かなんかが荒らした時にぶつかって崩れたんだろ」
「そうか・・」
男たちが歩き出す音が聞え、思わず溜息をついた。
その瞬間に爆発音が鳴り粉塵と共に机に吹き飛び体を打ちつけ、耳鳴りがして目の焦点が合わない。
爆発したのはワルテと捕まえた男たちの裏の壁で爆煙の中から銃を持った二人の男が入って来た。
男たちの先頭に入ってきた男はワルテと捕まえられている男二人を見ると後ろの男に何か耳打ちをしている、クリスは構えていたはずのAKがなくなり慌てて拳銃を取るため腰に手を回そうとするとワルテが立ち上がり先頭に入ってきた男に掴みかかり男を一発殴ったがすぐに殴り返され怯むと殴られた男が腰に手を回し拳銃を取り出しワルテに向けた。
クリスはガバメント拳銃をホルスターから取り出したが間に合わない。
男が引金を引こうとした瞬間、男の拳銃を持った手が下から蹴り上げられ発砲し、銃弾は天井に当たった。
クリスは狙いをつけ引金を引き一発で男の脳みそを撒き散らした、後ろの男がクリスに肩から下げていたサブマシンガンのような銃を向けようとしたが、クリスの拳銃の方が早く引金を三回引き男は仰向けに倒れた。
耳鳴りが止み周りの音が聞えるようになり背後で何かが壊れる音が聞えた。
机から顔を出すとマイクが盗賊と殴り合い、その奥ではユルバンが倒れ、オースティンが盗賊の銃を持っている腕にナイフを突き刺すのが見えた。
オースティンはナイフを刺した男が叫び声を上げながら銃を落としナイフを抜こうとしているスキに頭に拳銃を押し当て引金を引いた。
マイクは腰からナイフを取り出し殴りかかってきた盗賊の腕を避けナイフを胸に突き刺して一歩離れると男はナイフを抜こうと両手で柄を掴みそのまま倒れた。
「他に敵は?」
クリスは自分が撃ち殺した二人が入ってきた壁を見た、外に敵の姿はない。
「ここから見える範囲にはいません」
「こちらもです」
マイクとオースティンの声が聞こえた。
「ユルバンは大丈夫か?」
「ちょっと待ってください」
オースティンの声が聞こえ「大丈夫か?おい」「あぁ、大丈夫だ、おかげで助かったよ」という声が聞こえた。
「なにかあったのか?」
マイクの心配した声が聞こえるとオースティンが答えた。
「ユルバンが敵に撃たれそうになったんで足払いして倒したんですよ」
いいながら壁に空いた穴を指差した、そこは確かにユルバンが先ほどまでいたところだった。
「わかった、そのまま警戒してくれ、私はワルテを見る」
クリスはかがんだままワルテのところまで移動した。
ワルテは殴られたときにゴーグルが割れたようで破片を顔から払っていたので声をかけながら肩を叩いた。
「ワルテ、大丈夫か?」
「あぁ、ゴーグルが壊れて破片で目が開けられないんです」
クリスがワルテの顔を見るとワルテは手で何度も払っているため破片はほぼ取り除かれていた。
「手を貸すから立て、ワルテ」
クリスは用心のため周りを見て異常がないことを確認し、ワルテの手をとって立ち上がらせ壊れたゴーグルを取り外し地面に置いた。
「水筒はあるか?」
「腰のところです」
クリスはワルテの水筒を取った。
「水をかけるから洗い流せ」
水筒の蓋を開けワルテの顔に水を掛けるとワルテは慎重に目の周りを洗った。
「もういいです」
水筒の水を出すのをやめ蓋をした、ワルテは恐る恐る目を開けた。
「すいません」
「気にするな、もう一度良く洗い流しておけ」
クリスは水筒を渡しながら言った、そして捕まえていた二人、ボーエンとチェンを見下ろした、二人とも体を縛られているが体をくねらせて逃げようと動いていた。
「生きているか、ボーエン?チェン?」
「俺は生きてる」「俺もだ」
二人とも生きているみたいだ、盗賊と戦闘になってしまった今、周りくどいことをしている場合ではない。
「誰か、どうして奴らに居場所がばれたか調べてくれ」
「わかりました、俺がやります」
ワルテがしゃがみ込み死んだ盗賊の装備をあさり始めた。
クリスはチェンの胸倉を引っ張り上げナイフを取り出し首筋に当てた。
「お前、ルーカスを知っているといったな、知っていることをさっさと吐くんだ、さもなければ殺す」
クリスはチェンの頬にナイフの刃を押し付けた、すると肌が切れ血が刃をつたった、クリスはナイフを更に押し付けナイフは少しずつ頬に食い込んだ。
「わかった、言う、言うから止めてくれ」
チェンが言うのでクリスはナイフを頬から外し睨みつけながら言った。
「嘘はいうなよ、ルーカスはどこにいる?」
「ここに来ると途中に盗賊に襲われて死んだ、本当だ、俺はどうすることもできず逃げながらここに来たんだ、それに・・」
「それになんだ」
クリスはチェンを左右に振って声を荒げた。
「俺はルーカスがお前たちに見せたいと言っていた物がどこにあるのか知っているし、案内できる、どうするんだ?」
チェンはそういって頬から血を流しながら笑った、その顔を今すぐに殴りたい衝動に駆られたが押さえた。
「証拠はあるのか?」
「証拠になるかわからないが、ルーカスがお前たちに渡すと言っていた物が胸ポケットにある」
クリスは胸倉を掴んでいた手を離し男の胸ポケットに手を入れ中のモノを取り出した、それは縦横二センチ厚さ二ミリくらいの記録カードであった。
「ワルテ、大丈夫ならこいつを見張ってくれ」
「はい、大丈夫です、わかりました」
男から離れクリスは左腕のタッチパッドの外側にあるソケットにカードを入れた、すると動画が再生され始めた。
森のような場所を歩く男が数名が見え、手には銃を持っている、男の一人が振りかえりこちらを見て何か言った、どうやら映像は加工されているようで音は無かった、そう思っていると映像が消えて真っ暗な画面になってしまった。
数秒すると映像が流れ始めた、寝転んだ状態で撮影が始まっているらしく雑草と地面が大きく見える。
画面が揺れ辺りを見渡すと先ほど前を歩き振り返った男がアサルトライフルのような銃を撃っているのが見えたが、次の瞬簡に男の頭がザクロのように吹き飛んだ。
画面が男が撃っていた方を見るとそこには銃弾でいたるところが凹んだ黒色のボディアーマーと独特な顔を覆うヘルメットを着た者が見た事の無い銃を撃っている様子が見えた。
ボディアーマーを着た者の頭部に銃弾が当たり火花が散ったが、何も無かったかのように発砲された方向を向き銃を撃ちまくった、銃を撃つのが止むとボディアーマーの者はカメラの方に歩いて来て撮影者のことを見た。
ボディアーマーの者のヘルメットには外を見る穴のようなものは見えなかったが、ヘルメットとボディアーマーの間に金属のケーブルのような物が見えたが、銃を向けられ次の瞬間には映像が途切れてしまった。
カードを抜き取りそれを胸ポケットに入れた。
「マイク、どうやら情報だけは本当みたいだ」
「なら任務は継続ですね、この二人はどうします?」
「そうだな・・・」
クリスは二人を見た、チェンは場所を知っているため案内させなければならないが、ボーエンは必要ない。
「クリス、盗賊がどうして我々が居るのがわかったのか、わかりましたよ」
ワルテは立ち上がり、ゴーグルを渡してきた。
「そのゴーグルには赤外線機能がついているんですが、壁がボロボロで中に光が入っていたくらいですから、赤外線機能で我々が中に潜んでいるのがばれたんだと思います」
家がボロボロなのが原因か・・・。
クリスはチームを危機にさらした判断をして自分を責めて気が落ちてしまいそうだ、だがそれを他の仲間に気取られるわけにはいかない。
「ワルテ、チェンを立たせろ、それとユルバンはボーエンを何処かで捨てて来い、殺さなくていい」
了解したという二人の声が聞こえた。
「待ってくれ、俺もつれて行ってくれ」
床に寝ているボーエンが必死に顔をこちらに向け叫んでいる、顔には壁の鉄板の錆びの粉がかかり、喋ったときに口に入ったのかツバを吐いた。
ユルバンが強引にボーエンを立ち上がらせると、クリスのことを見てさらに懇願し始めた。
「お願いだ、つれてってくれよ、さっきだってお前の撃たれそうになった仲間を助けてやったろ?」
(どうやらボーエンが盗賊の持っていた銃を蹴り上げたようだ)
「それは助かったがお前の望みは盗賊を殺すことだと言っていたじゃないか、何で付いて来るんだ?」
「俺もお前たちを手伝うから、お前たちも俺の盗賊を殺すのを手伝ってくれないか?一人では無理だ」
ボーエンは関係ない我々を巻き込もうとしている。
「クリス、無視してください」
「わかってる、任務に関係ないからな、外に捨てて来い、ワルテはチェンに盗賊のゴーグルとマスク、ヘルメットを被せるんだ、それ以外のものは持たせるな」
クリスが言うとユルバンはボーエンを引きずり強引に外に連れ出していき、ワルテは死体から装備を外した。
クリスはチェンを睨み言い聞かせた。
「寄り道をしたりだまそうと思うなよ、ここからどのくらいの距離だ?」
「大体二日掛かるくらいの距離だ」
チェンが笑いながら言うとワルテがヘルメットとゴーグルをつけた、クリスは様子を見ながら腕組をして答えた。
「一日でいけるようにしろ、そうでなければお前を殺して私たちは帰還する」
チェンの笑い顔が消え、マスクが着けられた、ユルバンが戻ってくるとチェンを連れて家の外に出て出発した。
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