第41話 真の目的

 ニアが腕を振り下ろす。

 それと同時に、ブレードがミーミルに襲い掛かった。


 避ける事はできない。


「――ぐぅっ!」


 ブレードはミーミルの太ももと腕を斬り裂いた。

 裂かれた箇所を抑えてミーミルは地面に蹲る。


 その蹲ったミーミルに、さらにブレードが飛来する。


「――っ! っ!」


 ブレードは致命傷を与えないように、ミーミルの身体を僅かに削るように放たれていた。

 細かい切り傷がミーミルの身体に刻まれる。


「蹲ったままでいいのか? ほら、逃げろよ」

「くそっ――」


 逃げろと言われても、逃げる訳にはいかない。

 ミーミルはニアから距離だけでも離そうとする。


『木王触』


 そのミーミルの身体にアヤメの身体を拘束しているのと同じ触手が巻き付いた。


「さっきはよくも叩きつけてくれたよなぁ!」


 ニアは触手を思い切り引っ張る。


「ぐあっ!」


 ミーミルは木に思いっきり叩きつけられる。

 木にヒビが入り、木片をまき散らす。


「おら、まだ死ぬんじゃねぇぞ!」


 さらにニアはミーミルを地面に叩きつける。


「――かはっ!」


 それだけでは止まらず、ニアは木に、地面に、まるでオモチャのようにミーミルを何度も叩きつけ始めた。

 そして叩きつけられるたびに悲鳴を上げるミーミル。


 相手のされるがままだった。


「やめて! 卑怯者!」「やめてよ!」


 見るに堪えかね、木の根に拘束されたセツカとリッカが叫ぶ。


「黙ってろ」


 ニアがセツカとリッカを睨みつける。

 途端に木の根がミシミシと音を立てた。


「ああっ!」「うう!」


 苦し気に二人は声を漏らす。

 

「止めろ……! 二人に手を出すな……!」


 拘束されたままのミーミルは、息も絶え絶えにニアに言った。


「お前に命令する権利があると思ってんのか? なぁ!?」


 ニアはミーミルを木に思い切りぶつける。

 その勢いは、叩きつけられた巨木が揺れ、葉を落とす程であった。


「あああっ!」


 叩きつけられたミーミルは叫び、がくりと頭を垂れた。


「っと、いかん。死んでないよな」


 ニアは触手の拘束を解く。

 ミーミルは地面に倒れたまま、動かない。


「ちっ。テンション上がってやり過ぎちまったか。頑丈そうだから、これくらいじゃ死なねぇと思ったんだが」


 そう言ってニアはマキシウスに向き直る。


「次はお前だ。ガキ共はいつでも殺せるしな」


 ニアはマキシウスに近寄っていく。


「ど、どうしてこんな事をするのだ!? 神護者には十分に協力したではないか!」

「あー」


 ニアは頭を掻いてから、こう言った。




「決まってんだろ。戦争してーんだよ。人と亜人種で」


 


 アヤメの中で、やっと全てが繋がった。

 

 神護者の目的は、戦争だったのだ。

 そう考えれば、何故こんな事をしてきたのか説明がつく。


「かなり前に、大量に人を殺したんだが、戦争にならなくてな。それでも今一、戦争の火種にはならなかったんだよ。どうしたもんかと思ってた所に、領主の息子が森に来たんだ」


 ラライヤ調査隊捕食事件も神護者の仕業だ。

 亜人種は調査隊と本当に友好を結べていた。

 それを神護者が台無しにしたのだ。

 

「そいつを使って、それなりの権力者を集めようと思ったのよ。価値や立場のある人間が死ぬと、人間ってのは仲間の為に戦争を起こすんだろ? お前らが亜人種に殺されりゃ、今度こそ戦争間違い無しだ」

 

 全ての人間を騙していたのは、最終的に全員を戦争の火種にする為だ。

 亜人種は交流不可能な危険生物と判断され、人と亜人種の溝は決定的なものとなる。

 

「ただ人は煽れても、亜人種ってのはどうにもノンビリしたのが多くてな。ちょっとくらい人と小競り合いしても戦争までいかねぇ。だが部族が一つ、丸ごとなくなりゃ、さすがに戦争する気にもなるだろ」

 

 そしてネーネ族すら火種としようとしている。

 亜人種全体に火をつける為に、人の権力者達が集まる瞬間をずっと狙っていたのだ。

 

「つー事で、お前らにはここで死んで貰わないと駄目なんだな。理解したか?」

「貴様――! 人を何だと思っている!」


 さすがのマキシウスも激高し、剣を抜く。

 それを見たニアは馬鹿にしたように笑みを浮かべる。


「何とも思ってないさ。ゼロも言ってただろ。何が起きるか興味があるってな。それだけだ」

「人と戦争など起こして何の利があるというのだ! まさか帝国から独立するつもりか!?」


 ニアはそれを聞いて、にやにやと笑みを浮かべるだけだった。




「――違う」




 アヤメには、分かった。


 戦争というのは、お互いの正義を勝ち取る為に行う手段である。


 しかし神護者は国としての独立とか利権とか、そういうモノが目的ではないのだ。

 それが目的ならば亜人種を悪役にしたりなどしない。

 現状では利権や国を無視し、ただ暴れたいだけの狂犬である。


 

 だが、それこそが神護者の本質なのだ。


 

 ゲームでこういうタイプの相手に出会った事がある。


 自分にペナルティしかないのに、意味なく周りのキャラを殺し続けるプレイヤーだ。

 狩場を取られた訳でもなく、お金が手にはいる訳でもないのに。

 相手に被害を与えて、その反応を楽しむタイプのプレイヤー。


 正しくそれだった。

 

 現実でそんな事をすれば、もちろんタダでは済まない。

 遊びで他人に被害を与えれば、犯罪者として相応の罰を受けるだろう。

 自分に直接、罰が降りかからないと分かっているゲーム世界だからこそ、できる事だ。

 

 だが現実でも、それが実現できる可能性がある。


 それは自らが誰にも罰せられない存在だった場合だ。

 誰にも邪魔されない圧倒的なまでの力を得た生物なら、そういう事をしようと思ってもおかしくない。


 そして現神触である神護者を罰せられる者は、この世界に存在しなかった。

 同じ現神触か、それこそ現神か。

 それ以外に誰も、神護者を止められる者はいなかったのだ。




 それは仮想世界(ゲーム)の存在を知っているからこそ、辿り着けた真実。



 

「――こいつら、面白そうだから戦争をやってみたいだけなんだ」

 



 現神触『神護者』は、手段こそが目的であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る