第26話 食後の反省会
「大失敗だ! 大失敗だよ! いきなり全力目立ちだよ!」
「知ってるよ!」
食事を終え、部屋に戻って来たアヤメとミーミルは口喧嘩を始めた。
一緒に部屋へと帰って来たオルデミアも頭を抱える。
確かに毒殺の可能性は限りなく減ったが、目立ちすぎている。
昨日、頓挫した目立たないようにしよう作戦が今日も朝から頓挫である。
アヤメから案を聞いた時に止めるべきであった。
だが案を聞いた時は、オルデミアにはそれが最善のように思えたのだ。
実際、今以上に毒殺されないようにする策は思いつかなかった。
中央城にある王族専用の炊事場を使う手も脳裏をよぎったが、それでは食材に細工された場合の対処ができない。
王族専用の炊事場にある食材は、そのまま王族の口へと入ってしまうのだから。
だが一般兵士の炊事場ならば、食材を口に入れるのは不特定多数だ。
そんな所に毒食材を入れれば暗殺ではなく、ただのテロである。
食材に毒を入れられる事無く、食べる本人が料理し、念の為に他の兵士にも食べて貰う。
間違いなく完璧な毒殺対策だった。
――それ以外の影響がすっぽり抜け落ちていた事を除けば。
「今回は私の認識も甘かった。二人を何としても殺させないようにする事だけを、考え過ぎてしまったのだ。本当に申し訳ない」
オルデミアは二人に頭を深く下げた。
「ほんとだよお前馬鹿じゃないの痛ったい!」
「いや、こっちこそ気が回らなくてごめんなさい」
アヤメはミーミルの太ももに飛び膝を入れながら謝る。
ミーミルは『があああ』と叫びながら、地面を転がり始めた。
「もう今回は仕方ないとして……これからどうするべきか」
「ううん……」
実際の所、これ以上の毒殺されないようにする考えは浮かばなかった。
城の使用人達には、間違いなく貴族の息がかかった者達が紛れている。
オルデミアが個人的に信頼できる使用人はいる。
だがその者がある日、突然裏切っているとも限らないのだ。
信頼している人間でも、一生手に入らないような金に目が眩んでしまう事もある。
お金で動かない者は本人自身の命を脅かして従えてもいい。
自分の命すら顧みなくても、家族を人質にすればいい。
家族がいなくても、国を人質にすれば裏切るかもしれない。
仮に全て駄目だったとしても別の人間を探せばいい。
裏切らせる要素は幾らでもある。
そして四貴族はそれができるだけの力を持っている。
「……こちらも攻勢に出るべきなのかもしれない」
少し考えていたオルデミアは、呟くように言った。
「攻勢?」
「どんな強固な城塞も守るだけではいずれ落とされる。何か貴族が暗殺を諦めるような手を考えなければ」
「どんな手が?」
「それを今から考える」
「ふむーん」
アヤメは軽くため息をつくとソファーに座った。
それに続いて復活したミーミルとオルデミアもソファーに座る。
「どの貴族が一番危ない――っていうか誰が一番の危険人物?」
「全部だ」
オルデミアは即答する。
「また全部かぁ」
昨日、誰が犯人かと聞いた時も答えは全部であった。
しかし会食で出会ったあの四人全員が危険人物だとは、あまり信じたくは無い。
「ノーグロード家の世継ぎが全員、暗殺されたのは知っているな?」
「うん」
オルデミアの言葉にアヤメは頷く。
それは昨日ミーミルに説明された所だった。
「あれは四貴族が、前皇帝が遺した四人の皇太子と皇女に取り入り、継承者争いをさせたからだ」
「あなたを後押しして、皇帝にするので、見返りを下さい。って感じ?」
「その通り。ただ証拠も何も無いがな。最終的な結果から、それしか理由が考えられない――という憶測なのだ。情けない事だが」
オルデミアは悔しそうに言った。
オルデミアは騎士団長である。
騎士とは王を護るもの。
その騎士が五人の王族を全て護れなかったというのは、相当に悔しかったのだろう。
「ミゥン様が皇帝につくことで、何とか状況は収まったが、水面下ではまだ抗争が続いているはずだ。誰がミゥン様を操るのか、でな」
「そんなギスギスしてるようには見えなかったけど……」
「プライベートでも仲がいいのは、北のイゾルデ様と南のマキシウス様だけだ。他はそれぞれが全ての貴族と敵対している。会食でそんな印象は受けなかったか?」
「あー……」
今から思い返してみれば、シグルドとノアトピアは地味に口喧嘩していたような雰囲気だった。
冗談混じりかと思ったが、あれは割とガチ気味だったのかもしれない。
そしてイゾルデとマキシウスはお互いに話をしていたが、シグルドとノアトピアに対しては余り話しかけていなかったのを思い出す。
「……確かにそうかも」
「ミゥン様に話しかける貴族もいなかっただろう? あれはお互いにけん制している事の現れだな」
「……はっ!? ほんとだ!? なるほどー」
アヤメはこくこくと頷く。
最初から最後まで、黙々とミゥンは食事をしていた事を思い出す。
皇帝がいるのに話しかけないなど、普通ありえない。
強引にでも会話の輪に入れるのが当然だ。
だが食事を終える最後まで、誰もミゥンに話しかける者はいなかった。
「つまり、そういうけん制が起きしまう時点で、全員が危険人物だという事だ」
「全然気づかなかった……」
「無理もない。各貴族の情報を教える暇も何も無かったからな」
「ミーミル、気づいてた?」
アヤメは横に座っているミーミルを見た。
ミーミルは腕を組み、目を閉じて静かに沈黙している。
「ミーミル? 気づいてた?」
アヤメはミーミルを頬をつつく。
「んーあー寝てないし。寝てないし」
寝ていた。
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