ヤチコ姉さん:他2編

甲乙 丙

ヤチコ姉さん(396文字)

 ヤチコ姉さんは、笑うと頬にポコリと窪みができる人で、僕や僕の周りには、ノッペリした顔の人しかいなかったものだから、すごくその窪みが珍しくて、人差し指でツンツンとするのだけれど、ヤチコ姉さんは余計にポコポコとヘコまして、「こりゃ、いたずら少年」と、僕を抱えて振り回した。

 ヤチコ姉さんは僕の家からほど近い、使い古した雑巾みたいな色をしたアパートに住んでいたのだけれど、取っ替え引っ替えといった感じで、いろんな男の人がその部屋に入って、そして出ていった。

 ある日、なにか叫び声を上げながら、アパートから男の人とヤチコ姉さんが絡まった紐みたいに出てきて、男の人が無理やりドスンとやると、ヤチコ姉さんは膝から崩れ落ちて、しばらく動かなくなった。

 男の人が去ってから、僕が心配になって近づくと、ヤチコ姉さんはそそくさと薄い服の埃を払って、「しょうがないやね」と言って、涙と土埃で汚れた頬をポコリとヘコました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る