第272話偽証

労働裁判の弁護士から被告の証人調書が出たので来てほしいということです。

「2名が社員で、1名は取引先です」

いつものようにテーブルに調書の束を置きます。

一人は総務部にいた古株の女性です。

「そちらは書かされた感があって伝聞ばかりで証拠もないので問題はありません。もう一人が食わせ物の総務部長ですよ」

「これも不動産部長の伝聞ですね」

「なぜ不動産部長や経理課長のような接触のあった社員を出してこないのですかねえ」

「不動産部長は退職させられて係争中ですから証人にはならないでしょうね。経理課長は国税調査の時に辞めたと聞いています」

「この人は?」

「覚えがないですね」

「これを読むとホテル工事を請け負った建築会社ですね。あなたと会って工事代金を水増ししていいからバックを払えと言ったと証言しています。これが事実なら大変な証人です」

私は証拠として出しているスケジュールと工事代金リストを捲ります。

「この工事代金の支払いの再分割という報告書を見てください。彼が支払いを受けたという日がここに出ていますね?でも工事代金は私がホテルに出向する3か月前に分割支払いが始まっています。彼と会った日はここにあるスケジュールの再分割依頼日です」

「なぜそんな見え透いた嘘を?」

「現在工事代金を止めているという話を聞いたことがあります。払うから偽証を頼んだのではないですか?」

これは得意の社長のやり方で総務部長が動いたのでしょう。

こんな会社をブラック会社と呼ぶのでしょう。

でも証拠がなければこれもまかり通ってしまうのです。

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