第98話引き継がれなかった事情

やはりトイレが30分も我慢できなくなってしまいました。

「ホテルの社長との打ち合わせは延期しましょう」

相棒の部長が声をかけてきます。

「そうもいかないよ」

「じゃあ僕がやりますよ」

「これは社長の本音を聞かないと。取り敢えず2人でここでやるよ。ここならトイレはすぐに行けるから」

ホテルの社長には病気の件は伝えていますし、そういうところには気が回る人です。

「いや、体調はどうですか?」

社長がいつものお茶のボトルを持って入ってきます。

入れ替わりに部長が部屋を出ます。

「家賃の引き下げはまだ決まりませんか?」

「本社の社長から条件の整備をしてからと言われているのです」

「条件?」

「各ホテルの独立採算を導入しろと言っています。もちろん本部が全体を見るのは変わりませんが」

「業績に合わせて幹部の給料を決めるというのですね。でもすでにホテル同士の格差は出ていますよ」

「この表を見てください。過去6か月の平均実績を軸に半年ごとの目標を出してみました」

社長は表を覗きこんでいます。

「これならある程度平等ですね」

その間にトイレに走ります。

「問題があるのです。専務の給与が異常に高いのです。何か理由があるなら話してください」

「実はこのホテルの管理を受けた時、前の管理会社の別会社の社長を任されていて2つのグループを面倒見ることになったのです。実態的にはそのまま従業員を使う形になりました」

「本社の社長は?」

「もちろん息子も知っています。その時に知り合った彼に人集めをしてもらいました。実は彼が閉めた会社の社員を呼び集めたのです」

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