第29話
フーショウはきつく縛り上げた肩の傷口をなでさすった。
手当をしたのはシェングだった。
丹念にこすり落とした垢のしたからあらわれたのは、肌の白い母親によくにた美しい若者だった。
「おれはずっとあんたに云いたかったんだ。母が死んでから、ずっとあんたがおれの支えだった。おれはずいぶんひどいことをしたと思う。それなのにあんたはとても優しげに笑うんだねぇ……」
かれは一言一言ためらいながらつぶやいた。
「あれ以外に、おれはあんたが一番大事なんだって、あんたに教えてあげることができなかったんだ。おれはあんたが好きなんだ……あんたを守ってやりたいよ……」
かれは彼女の手を取り、真剣なまなざしで彼女の瞳を見つめた。
彼女は何も云わず、うっすらと笑みを含んだままだった。ひとつの考えが、すでに彼女の頭のなかで形作られていた。
かれは片腕で彼女を抱きすくめた。
何度も熱い吐息を漏らして、彼女に自分の思いのたけを云いつのった。
彼女はあらがわなかった。
かれの手が髪をまさぐっても、金の帯がとかれ、その手がわきを擦り抜け、背中にまわり、腰を愛撫しても、彼女はただ笑っていた。
はじめてフーショウとの人間らしい交わりを終えて、シェングはささやいた。
「フーショウ……あなたの腕を喰らった竜を殺してしまって」
かれはその言葉に耳を傾け、黙ってうなずいた。
「竜は東からきたのよ……とても大きい都を占領して、人をむさぼり食っているの」
彼女はそれきり口をつぐんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます