#80 あすか⑥
ひかり山の山頂は、麓と比べて空気が美味しい。
リョコウバトにあげようと思っていたじゃぱりまんを、ひとくち頬張る。
やっぱり私は、一人の方が落ち着くわね。
そんなことを考えながら、きらきらと流れるサンドスターを眺めた。
そういえば、ここであんなこともあったっけ。
…………
かなり昔の話だ。
アスカという面白いヒトがホートクにやってきた、という噂は聞いていた。
でも、こんなにしつこいヒトだったなんて。
「ここで食べるじゃぱりまんは最高だよねー! ねぇ、そう思うよね? ね?」
「………」
せっかく一人で気持ちよく食べていたのに、こんなに騒がしくては台無しだ。
「…ねぇ、反応してよ?」
無視しているつもりなのに、アスカは私の顔をぐいぐいと覗き込んでくる。
「せっかくじゃぱりまん、もう一個あげようと思ってたのにー…」
目をそらしているつもりなのに、目線を無理やり合わせようとしてくる。
「おーい…。生きてるかーい」
顔の前で手をぶんぶん振り始めたので、私はしびれを切らした。
「…あのね、私は一人でじゃぱりまんを食べに来たの。あなたのことは呼んでないわ」
すると、アスカは少し顔を遠ざけて、
「そりゃあ、私は呼ばれても誘われてもないよ。私が自分で来たかったから来ただけ!」
と、屈託なく笑った。
私は構わず、アスカを睨みつける。
「私のところに来るの、これで何回目かしら? この前は広場で、その前はひでり山…良い加減、やめてほしいんだけど」
「だってゴマバラワシ、いつも一人でいるじゃん? イベントの時だって一人で遠くから見てるだけだし、他のフレンズと一緒にいるところ、見たことがないよ?」
「だから、私は一人でフレンズ達を見物している方が好きなのよ。慌てたり驚いたり、笑ったり…見ているだけで面白いじゃない」
「うーん…。いや、それはそれで良いかもしれないけどさ、やっぱり友達付き合いも大事だと思うよ。きっと、仲がいいフレンズができたら、もっと楽しくなると思う」
「その説得も聞き飽きたわ」
「えぇ〜…。参ったなぁ〜…」
アスカは頬を掻きながら、頭をひねらせた。
参ったのなら、早くどこかへ行ってほしいのよね……と思っていた矢先。
「そうだ!!」
アスカは突然大声を張り上げ、手をぽんと叩いた。
「うるさいわね…」
「ゴマバラワシって、スカイダイビングが好きって言ってたよね?」
「えぇ、そうだけど…」
「だったらさ、誰か誘えば良いんじゃない?」
「…スカイダイビング、に?」
「うん! せっかくこの地方には飛べる子がいっぱいいるんだからさ。スカイダイビングが好きそうな子を誘って、一緒にやってみたら?」
「いや、だから私は一人で…」
必死に拒否すると、アスカは私に耳打ちしてきた。
「…誰かとスカイダイビングをやれば、慌てる子もいれば怖がる子もいると思うよ…?」
私は目を丸くした。
「…確かに…」
ぽろっとそう呟くと、アスカは不敵に笑った。
「誰か誘ってみなよ〜。」
「…でも、誰が良いかしら…」
すると、アスカは私の真後ろを指差した。
「あそこにいるフレンズは?」
振り返ると、何やら退屈そうな表情で展望台近くを飛んでいるフレンズが目に入った。
あのフレンズは確か、イヌワシさんだ。
私は軽く頷いてから、飛び立った。
「頑張れよー!」
アスカは、私の背中に向かって声をかけてくれた。
あのヒトはかなりしつこいけど、悪いヒトではなさそうだ。
「はぁ、暇だな。何かスリルあることでもないかな…」
ため息をつきながら展望台に降り立ったイヌワシさんの背後から、声をかけてみる。
「スリルをお探しのようね、イヌワシさん?」
「のわっ!? い、いきなり後ろに立つなよ……。えーっと、ゴマバラワシだっけ?」
「ええ、そうよ。でも今重要なのは私の名前じゃない。イヌワシさんが『スカイダイビング』に興味があるかないか、よ。スリル満点のね」
「スリル……! そのスカイダイビングってのには、スリルがあるのか?」
「ええ、スリル満点の……『とっても楽しいスポーツ』なのよ」
私はさっきのアスカのように、不敵に笑った。
…………
一人の方が落ち着くけど…
仲間がいるのも、なかなか楽しいわね。
あの後、またここでアスカとじゃぱりまんを食べた。
今度は、スカイダイバーズの二人も一緒に。
「あー、美味しかった! ごちそうさま」
じゃぱりまんを食べ切った後、そう言って手を合わせたアスカに、私は首を傾げた。
「? 今のは何かしら?」
「え? ごちそうさまのこと?」
「手を合わせるのか? 食べ終わった後に?」
「何か意味があるんですか…?」
二人も疑問を投げかける。
「あぁ、これはヒトの習慣だよ。感謝したり、願い事をしたりする時に手を合わせるんだ。だから今のは、『美味しいじゃぱりまんをありがとうございました』っていう意味」
あの時は、ふーん…と答える程度しか関心がなかったけど。
アスカの言ったことが、本当なら…
この願い事が、サンドスターに届きますように。
私はじゃぱりまんを食べ終わった後、またサンドスターに向かって手を合わせた。
『明日はスカイレースだ! みんな、頑張ってスカイインパルスに勝とうぜ!』
『のぞむ所よ。良いレースにしましょう!』
『結果発表ー! 優勝はスカイインパルスだー!』
『負けてしまいましたが、楽しかったですね』
『次こそは優勝だ!!』
『ガイドさん達への、感謝の会?』
『そう! もちろん三人も来るでしょ?』
『そっちのお皿、じゃぱりまんが乗っていないのです。さっさと調達するですよ』
『 料理はまだなのですか?!』
『はいはい、今作ったから…』
『やったー! 準備終わったー!』
『本番は明日だから、今日はみんなでお疲れ様会をするよー!』
『やったー!!』
『…あれ? アスカ?』
『何でここに…? まだ呼んでないのに…』
『えっ? 何してるの…?』
『ちょっと、せっかく準備したのにー!』
『…貴方、アスカではありませんね?』
『何言ってるの? 私はアスカだよ』
『嘘つけ! アスカじゃない!!』
『ねぇ、こんなことして私達が喜ぶと思ってる?』
『何が言いたいのですか!』
『…みんなは、私達に利用されてるんだよ?』
『早くするのじゃ! このままでは、パークが吹っ飛ぶぞ!』
『なぜ、あの三人を車に乗せなかったのですか!』
『逃げろーっ!』
蘇るあの記憶に、私は歯を食いしばった。
あいつに奪われた輝きが、みんなに戻りますように…。
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