#68  そと

「外で、ですか…?」

 額に冷や汗がつたう。

 まさか、見られていた…?

「はい。突然出て行ったので心配になって外を覗いて見たら、誰かと話されていたので…暗くてよく分からなかったのですが、フレンズさんですか?」

 私は心の中で「あちゃー…」と呟いた。

 やっぱり、見られてたかー…。

 そもそも、あの心配性のアリツカゲラさんが、突然外に飛び出した私を追いかけないはずがなかった。むしろ、私と男性の間に割って入ってこなかったことが幸運だ。

 とりあえず、話していたのが男性だということはバレていないようなので、ここはアリツカゲラさんには申し訳ないが、嘘をつくことにした。

「あ、実はそうなんですよ…必死になって探してたら、声をかけられて。私も、何のフレンズだったかはよく覚えてないんですけど」

 すると、アリツカゲラさんは安堵の表情を見せた。

「そうだったんですか〜。いや〜、ビックリしました〜…。でも、スマホが見つかって良かったですね〜」

「あっはい、ありがとうございます」

 良かった。とりあえずごまかせたようだ。

 大した出来事ではないし、アリツカゲラさんもこの事はすぐに忘れてくれるだろう。

 

 そう思って、何となくアリツカゲラさんの顔を見た瞬間。

 一瞬、アリツカゲラさんの口元が、引きつったように見えた。

 …今のは…笑っていた……?

 分からない。ただ、その表情に何故か恐怖を感じ、ぞっと鳥肌が立った。

 

 目が合った瞬間、アリツカゲラさんはいつもの笑顔で笑いかけてきた。

「ジャパリまん、まだありますよ〜?」

「あっ、いえ、もう大丈夫です、ありがとうございます」

「そうですか〜、いつでも食べてくださいね〜」

 アリツカゲラさんが食器を片付けにキッチンへ行くや否や、私は顔をしかめた。

 まずい。ここにいてはいけない気がする。

 何故だか分からないが、アリツカゲラさんのあの顔を見た瞬間、そう感じた。

 また、何かしら理由を作って外に出ても良いだろうか。

 スマホの画面を見ると、時間は22時15分と表示されていた。

 外はそこまで寒くないが、寝る場所もじゃぱりまんがある場所も分からない。どこにどんなフレンズがいるかも分からないし、セルリアンが潜んでいる可能性もある。

 今すぐここを出た方が良いと脳が信号を出しているが、それよりも外へ飛び出すことへの不安の方が大きかった。

 葛藤しながら考え込んでいる最中、突然、誰かの視線を感じた。

 私はビクっとして、アリツカゲラさんのいるキッチンへ目を向ける。しかし、アリツカゲラさんは戸棚の整理に集中しているようだった。

 じゃあ、誰かが窓から…?

 そう思い、背後の窓の外を見たものの、そこには誰の気配もなかった。

 一体、何なんだ…?

 今すぐ外に出たい。尋常でない腕の震えと心臓の鼓動を感じ、私は決心した。

「あ、あのっ…」

 ちょっと外に出たいんですけど、と言いかけた瞬間、アリツカゲラさんに先を越された。

「あれ、おかしいな…。この前あったはずのお皿が…」

「…え?」

「あっ、すみません、物が一つなくなっていて〜…。もしかしたら、ハカセが持っていってしまったのかもしれません〜。全く、勝手に持ち出すなと言っているのに〜…」

「そ、そうなんですか…?」

「まぁ、また今度返してもらえれば良いんですけど…私も最近忙しいので、忘れない内に取ってきますね」

「え、今、ですか?」

「はい。すぐに帰ってくるので、お留守番、頼んでも良いですか〜?」

「あ、はい。大丈夫です」

 助かった…!

 これでしばらく、一人の時間が作れる。

 この緊張感をほぐしてくれた博士には、後で礼を言いたいくらいだ。

「突然ですみません…。すぐに帰るので〜」

「はい、気をつけて」

 ドアがぱたんと閉まった瞬間、私は大きな溜息をついた。

 ひとまず安心だ。

 

 


 


 

 

 

 

 

「…見てきたわ」

 ハクトウワシが、草むらの影に隠れていたハカセ達の元へ戻ってくる。

「あいつは棚の整理をしてて、フーカは何故か不安そうな顔をしていたわ。何があったかは分からないけれど、フーカに怪我はなさそうだったし、あいつの様子も特に変わりなかったわね」

「なるほど…」

 熟考するハカセに、ここまで来ても余裕な態度を見せるゴマバラワシが声をかけた。

「それで、ログハウスにはいつ突入するの? 早くしないと、あいつを倒すチャンスがなくなっちゃうじゃない」

「…ここは、奴が出てくるのを待つべきなのです」

「え? さっきまで突入するって言ってなかったかしら?」

「そうですが、フーカが特に危害を加えられていないのならば、すぐに対抗する必要もないでしょう。ここで突入したら、ログハウスはもちろん、フーカの身に何が起こるか分かりません。逆効果なのです」

 ハカセの意見に、ジョシュも同意する。

「そうですね、逆効果なのです」

「でも、どうやったら外に出てくるんでしょうか…?」

「あえてこっちの存在に気づかせるっていうのもアリじゃないかしら?」

「いえ、それは危険です。とりあえず、今は待ちながら策を講じましょう。何事も、考えてから動き出すべきなのです」

「すみません、私がしばらく家を開けてしまったばかりに…」

 アリツカゲラが謝罪の言葉を言いかけた瞬間、ジョシュが低い声で一同に声をかけた。

 

「…出てきましたよ」

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