#59  ちえ

「遅いのです、フーカ」

「なのです」

 ログハウスへ戻ると、博士と助手がソファにちょこんと座っていた。

 

「スザクさんに、許可もらえたよ」

 私が「ただいま」の代わりにそう言うと、二人は丸い目をいっそう大きくして、

「本当ですか?!」

「あのスザクに、会えたのですか?」

 と、身を乗り出して聞いてきた。

 

「うん。ね」

 アキちゃんとウグイスさんに話を振ると、二人も満足そうに大きく頷いた。

「な、何と…」

「フーカ、お前、本当にフーカなのですよね?」

「? どういうこと?」

「今になって、お前は本当はアスカなのではないかと疑わしくなってきたのです」

「いや、私はアスカさんじゃないって…」

「まぁ、詳しい話はまた後で聞くとしましょう。フーカには、早速次の頼み事があるのです」

 博士は私達にソファに座るよう促し、じゃぱりまんを差し出してから説明を始めた。

「次は、ヘビクイワシの演劇を見てもらいたい…ところだったのですが、優先すべき仕事が急きょできたので、そちらへ当たってもらうのです」

「優先? 何か大変なことでもあったの?」

「スカイレースの準備なのです」

「えっ、スカイレース?」

 そう言えば、と、私はここに来たばかりの日を思い出した。レースをやりたくて仕方がない様子だった猛禽類トリオ。彼女達はどこまで準備を進めているのだろうか?

「そうです。ハクトウワシ達が張り切って準備を進めているのですが、最近レースのコースにセルリアンが大量発生しているそうなのです。それも、どうやら親玉のセルリアンがいるようで、そいつを倒さない限り全滅させることができないんだとか」

 セルリアン?

 久々に聞いた単語だった。それも、その存在について私はほとんど知らない。

 私が理解に苦しむのを見た博士が、じゃぱりまんを一口頬張ってから、セルリアンについて話し始めた。

 

「セルリアンとは、無機物にサンドスターが当たったもののことを言うのです。形は何パターンかありますが、全体的に柔らかく、大きな目が一つあるのが一般的です。フレンズが持っているサンドスターを狙って襲ってくるので、パーク内ではフレンズの天敵に当たりますね」

 

「フレンズの、天敵…?」

 姿形が、全く想像できない。

「そうです。厳密に言うと、フレンズを食べてしまう…そんな存在なのです」

「た、食べる?!」

 フレンズを、食べる…?

 ますます想像がつかなくなってきた。

「まぁ、小さなセルリアンはフレンズ一人で倒せますし、よっぽど強力なものでない限りは大丈夫なのです。そうでなければ、パークはとっくになくなっていますからね」

「そうなのです。フーカが今まで見たことがないように、セルリアンが出てくる確率はそう高くありません。ただ、スカイレースのコースには高頻度で現れているようなので、対処しなくてはなりません」

「えーと、つまり、私はどうすれば?」

 百聞は一見にしかずだ。とりあえず、セルリアンはその場で見て確認するとしよう。

 問題は、私がそのセルリアンとやらにどう対処するかである。

 フレンズにはある程度力があるようだし、セルリアンに対抗できるのかもしれないが、私にはそんな怪物(?)と戦えるほどの体力はない。あの某霊長類最強の女のような人間であれば、倒せるかもしれないが…。

 フレンズにはない、人間の取り柄。

 それは…

 

「フーカの知恵を貸してほしいのです」

 

 予想がどんぴしゃで当たった。

「やっぱり…。でも、私だってどこまで考えられるか分からないよ? セルリアンのこと全然知らないのに…」

「大丈夫なのです。ヒトは、我々と同じくらい賢いので」

「賢いので」

「そんなこと言われても…」

 私が顔をしかめると、しばらく黙っていたアキちゃんが励ましてきた。

「フーカさんなら、きっと大丈夫ですよ!」

「私もそう思います。フーカ様であれば」

 ウグイスさんも、背中を押してくる。

 ここまで期待されてしまったら、応えない訳には行かない。

「わ、分かった…。とりあえず、そのレースのコースに行けば良いの?」

「そうですね。迎えは呼んでいるので、そろそろ来ると思うのですが…」

「あ、お迎えって、ハクトウワシさん達?」

「いえ。今回は…」

 

 助手が言いかけた瞬間、ログハウスのドアが勢い良く開いた。

 

「フーカ! 迎えに来たぜー!」

 

 男勝りな声が、室内に弾むように響いた。

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