#50  あすか③

「あ、あっつい…!」

 

 そこら中から煙が吹き出す、灼熱の岩山。

 クジャクとパークガイドの女性は、立ち塞がる岩を避け、時には乗り越えながら、山頂に向かって歩いていた。

 

「ごめんなさいアスカさん、私のワガママでこんな所まで連れてきてしまって…」

 

 クジャクが、息を切らしながら申し訳なさそうにガイドに言う。

 クジャクの前を歩くガイドは、振り向いてから大きく首を振った。

 

「いやいや、私はクジャクに言われたからってここに来たんじゃないよ。私もスザクに会いたかったんだ」

「本当ですか…? 私がスザクさんの羽根を見たいって言っただけなのに、ここまで…」

「ほんとだって。それに丁度、レースの見学に来ないかスザクを誘ってみようと思ってたんだ。だから、このチャンスを逃す訳には行かないと思って」

「本当なら、良いんですが…」

「おっ、あそこが山頂じゃない?」

 

 ガイドが指差した先にあったのは、先の尖った岩が突き出た山頂だった。岩からは、一段と大きな煙が音を立てて吹き出ている。

 

「スザクさん、いるでしょうか…?」

「きっといるよ。間違いない」

「なら良いのですが…」

「それにしても不思議だね…この辺の煙は、吸っても無害みたい」

「あ、確かに…。この前キャンプファイヤーをした時に吸った煙は、不味いし苦しくなりました」

「でしょ? これもスザクの――」

 

「誰じゃ? こんな所までのこのこと」

 

 突然した第三者の声に、二人は驚いて顔を上げた。見ると、山頂の岩陰から、燃えるような真紅の尾羽を持った鳥のフレンズが姿を現していた。

 

「…あ! スザクさん!」

 

 クジャクが、目を丸くして声を弾ませる。


「わーお、綺麗な羽…」

 

 ガイドも、その尾羽の美しさに目を見張った。

 

「そんな物珍しそうに見るでない! ここまで来たということは、我に用があって来たのであろう?」

 

 スザクは、腰に手をあてながら二人の前まで歩み寄る。

 

「そ、そうです! えっと、私、スザクさんの羽が誰よりも綺麗って聞いて、それで見てみたくて…」

 

「…それだけかの?」

 

「あ、私も頼み事があってここまで来たんだ。初めまして、パークガイドのアスカって言います」

 

 眉間にしわを寄せるスザクに、アスカはびくともせず話す。

 

「…あすか? パークガイドか…」

「そ、ガイド」

 

 四神とも呼ばれるスザクに対し、軽い口調で話しかけるアスカを見て、クジャクは『失礼なのでは…?』と思ったが、スザクの反応は意外と平坦なものだった。

 

「なるほど。お前の名を、一度だけ聞いたことがある。ホートクのパークスタッフのリーダーをしているのだろう? 頼みとは何じゃ?」

「今度、ホートクでスカイレースをするんだ。鳥のフレンズ達がどれだけ早くゴールできるかを競うんだけど、良かったらスザクも見に来ない?」

 

 アスカの誘いに、スザクは即答した。

 

「断るのじゃ!」


 しかめっ面で腕を組むスザクを見て、アスカは子供のようにだだをこねる。

 

「えーっ、なんで~!」

「フレンズ達のお遊びに付き合っていられるほど、我は暇ではないのじゃ。それに、人間共の前にそう簡単に姿を現したくはない!」

「別に良いじゃん? 神さまにだって休暇は必要でしょうにー…」

「簡単に頼み事をするでない! 我は人間のことをよく知らぬ。人間と話をしたのは、アスカ、お前が初めてじゃ」

「え? そうなの?」

「そうじゃ。人間は、自分達の利益のためにフレンズを利用している…そうではないのか? 我は人間を信用できん」

 

 スザクが『利用している』と言った瞬間、アスカは表情を一変させた。

 

「利用なんかしてない」

 

 睨みつけられたスザクは、それに応戦するかのようにアスカを睨み返す。

 

「本当かの?」


「本当。これだけは信じて。人間はフレンズを利用してない」

 

 アスカの目は、絶対に反論させまいと言うように、真っ直ぐとスザクを見ていた。

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