#44  ☆

「ちょっ、ちょっと、ストップ!」

 

「ギャーギャーうるさいのです。さっき、ラッキービーストがフーカを呼んでいると言っていたのです。そこへ連れて行ってやっていると言うのに」

 

「いやいや、私行きたいなんて言ってないし!」

 

 いくら飛ぶのに慣れたとはいえ、突然連れ去られて慌てない者などいないだろう。

 これは列記とした誘拐だ。私にはまだ仕事が残っているのに…!

 

「ここなのです。あそこにいるラッキービーストに話しかければ、用件を伝えてくれるのですよ」

 

 博士は急に下降を始め、他の山よりも比較的低い山の山頂に降り立った。同時に、私の足も地面につく。山頂に立つ巨木の根元には、確かに「ボス」がいた。

 いっしゅんよろめいてから、私は姿勢を整え、博士に向き直る。

 

「どういうこと?! てか、このロボットはボスなの、ラッキービーストなの?」

 

「正式にはラッキービーストと言いますが、フレンズ達はボスと呼んでいるのです。では、用件が終わったらまた呼ぶのですよ」

 

「はぁ?!」

 

 さらっと言い切り、博士はまたすぐに飛び立った。

 

「ま、待ってって!」

 

 博士は一度もこちらを振り返らないまま、山の向こう側へと姿を消してしまった。

 

「ウソでしょ…」

 

 私はがっくりと肩を落としながら、その場にしゃがみ込み、ボスと向き合う。

 

「ねぇ、私に用件って」

「マッテタヨ、フーカ」

 

「うわぁぁぁっ! 喋ったぁ?!」

 

 私は、驚きに勢い余って退く。

 …いや、さっき会ったボスも同じように喋ってたか…。

 ボスは感情のない声で、そのまま話を続けた。

 

「モトパークガイドケンホートクチホーカンリニンダイヒョウのアスカカラ、メッセージガキテイルヨ。サッソクサイセイスルネ」

 

 元パークガイド、兼、ホートクチホー管理人代表…

 …アスカ?!

 

 アスカから、私にメッセージ?!

 アスカは、私のことを知ってたの…?!

 私が現状をよく把握できていないまま、ボスはベルトに付いたレンズのような物から、眩しい光を発した。その光は、背後にいた私の目にも強く届く。

 

「わっ、まぶしっ…」

 

 反射的に閉じた目をそっと開けると、光は徐々に人の姿を形取り、やがて大きな帽子を被った私そっくりの女性になった。

 おそらく、この人がアスカだろう。

 

 空間に映し出されたアスカは、広々とした山脈をバッグに、笑顔でこちらに話しかけてきた。

 

『こんにちはー! パークガイドのアスカです』

 

 初めて彼女の言動を見たが、笑顔や声まで私にそっくりだ。

 

『今回はお客様に、ここホートクチホーのフレンズ達を紹介していこうと思います!! ホートクチホーのボスである私が言うからには、絶対に間違いないですからねー』

 

『ちょっと、ボスってどういうこと?!』

『アスカはロボットじゃないでしょー!』

 

 アスカの背後から声をかけているのか、フレンズ達の声もちらほらと聞こえてくる。

 

『いやいや、あのボスと私の言ってるボスは違うって。私は、ここのチホーのリーダー、ってこと』

 

 アスカも、横を向いて見えないフレンズ達に声をかける。

 

『何それー、誰が決めたんですか?!』

『聞いてないですです!』

 

『まぁまぁ、落ち着いて。これ、お客様に見てもらってるんだから』

 

『目の前に誰もいないじゃーん!』

 

 フレンズ達の声は、今と比べるとやけに賑やかで、姿が見えなくとも明るい雰囲気が伝わってくる。

 

 やはり、ヒトがいた頃のパークはかなり盛り上がっていたらしい。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る