#6 さんどすたー
記憶喪失の女の子は、私を抱えると、ふわりと飛び上がった。
「ごめんね、往復させちゃって」
「良いんです! 私、飛んでると何だかすごく気持ちいいんです」
「そっか、なら良かった」
三人組ほど速くはないが、女の子はあっという間に山頂まで私を運んでくれた。
飛べるということを知ってから、女の子は更に元気になった。何だか、こちらまで明るい気分になる。
山頂からの眺めはとても良く、周囲の山脈はもちろん、その向こう側にある草原らしき場所まで見渡すことができた。
目立った人工物はなく、この辺りは自然が豊かなようだ。
「ではヒト、あれを見るのです」
博士は急に何かを指差した。
私は博士の指先に見える景色を眺めると、そこには他の山とは明らかに違う形の山があった。
「わっ、何あれ…」
その山は、山頂から巨大な結晶のような物を生やしていたのだ。しかも、それがきらきらと輝いているのが、視力の低い私でも分かった。
記憶喪失の女の子も、不思議そうにその山を見つめている。
「あれは、火山なのです」
「えっ、火山?」
「そうです。そして、あの火山から噴火しているものについて、今から説明するのです」
よく聞くのですよ、と念を押してから、博士は説明を始めた。
「何度か聞いていると思いますが、ここはジャパリパークという名前の場所。かつては、ヒトが管理していたテーマパークなのです」
「ヒトが…?」
「そうです。ヒトが世界中の動物達をここへ運び込み、生きたまま展示していた、と本には書いてあるのです。」
いわゆる、サファリパークというものか。
まさか、サファリパークをもじってジャパリパークにした、なんて意味ではないだろうな…? だとしたら、ここは日本人が管理していたということになる。
「しばらくは、人間が動物を見て楽しむ、あるいは動物について勉強する場であったと考えられます。しかし、あの火山が噴火して以来、ジャパリパークの雰囲気が一転したのでしょう」
何となく、博士の言いたいことが分かってきた気がする。
私は、頷きながら博士の話を聞き続けた。
「あの火山から噴火したキラキラは、サンドスター、と呼ばれるものなのです。サンドスターに触れた動物は、私達のようにヒトの姿に変わると言われています」
記憶喪失の女の子は首を傾げっぱなしだったが、私はここで全てが繋がったような気がした。
なるほど。簡単に言えば、ここにいる子達は動物を擬人化した女の子だった、ということか。だから、この子達の頭に羽がついていたのか。
今まで気がつかなかったが、よく見ると、全員に尾羽のようなものも見てとれる。
動物が人間になるなんて、不思議な世界である。私は、動物なんかには一切興味がないのに。変な夢だ。
「理解したようですね。私達のような者達を、フレンズと呼ぶのです。これは、ヒトが付けた名前であり、私達個人の種名も全て、ヒトが付けたものなのです。例えば、私は普段はハカセと呼ばれていますが、正確にはアフリカオオコノハズクという鳥のフレンズなのです。残りの三人組も、あとで自己紹介するですよ」
博士にそう言われた瞬間、三人組ははっとして声を上げた。
「あっ、そうだったわ! 私達、自己紹介するのをすっかり忘れていたわね」
「なるべく速く、ハカセの所にヒトを連れていきたかったからな」
「ごめんなさいね。あとで自己紹介するから」
コノハズク…という名前は、聞いたことがある。確か、フクロウの仲間だったはずだ。最近はペットとして人気を高めている、とツイッターで見たこともある。確かに、博士の容姿は、どことなくフクロウを想像させるものだった。
三人組と記憶喪失の女の子にも、ちゃんとした名前がついているのだろう。
そういえば、私にも名字と名前があるのだった。
みんながあまりにもヒト、ヒトと呼ぶから、自分の名前すらすっかり忘れていた。よって、私も後程自己紹介した方が良さそうだ。
「フレンズについての説明は、これで終わりなのです。ここからは、ヒトに深く関わりのある話をするのです」
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