異世界から来た女大賢者に懐かれて困ってます
風見祐輝
第一章 異世界人現る
第1話 プロローグ
「あのう~すいませんそこの御方」
俺の名前は
ただいま夜中の午前零時を軽く回った時刻。駅前のコンビニで晩飯? いや夜食を購入し、買い物袋をぶら下げ、閑静な住宅街を帰宅するため、息交じりに歩いていると、俺は何者かにそんな声を掛けられた。
強制的サービス残業で終電ギリギリに電車へ飛び乗り、比較的家賃の安い終点近くの駅で降り、肩を落としながら猫背でトボトボと歩く俺は、はっきり言って非常に疲れている。
「……!?」
振り向くと街灯の下には一人の女性?
そしてその声の主を確認した俺は絶句する。
なぜならそこに立っていたのは、それはそれは場違いな姿の女性だったからだ。
「お、俺の事か?」
俺は自分を指差しそう確認する。疲れているので無視しても良かったのだが、一応返答してみた。
「そうです、他に誰かいるのですか?」
不審な女性は首を捻ってそ言う。
俺はキョロキョロと辺りを窺うが、俺とその不審な女性以外この場には誰もいない。
──ヤバいな、なんかすげー嫌なんですけど……。
「つかぬことを訊きいたします、ここはどこなのでしょうか?」
「あ、ああ迷子ね……ご苦労様。気を付けて帰りなよ……」
ハッキリ言って関わり合いなど持ちたくない。
何故なら、漫画やアニメなどでよく見る、魔法使いとか、魔女とか……そんな格好で夜中に徘徊している奴に、どうやって対応すればいいのか分からない。
きっと痛い子なのだろう。コスプレなんてして現実逃避しながら夜の寂しい道をそのキャラになり切って徘徊する。たまたま出会った俺に向けて、妄想設定どおり問いかけてくる。そんな人に関わるほど俺はお人好しではないし、元気も余っていない。疲れているんです。
そう言って俺は軽く手を上げ、その女の子をスルーしようと横を通り過ぎようとする。
すると、
「えいっ!」
「──いてっ!」
コツン、と女性が持っている杖のような物で頭を小突かれる。
そっちの住人のいう所でのスタッフとかいう代物だろう。といっても、硬そうな木か何かで出来ていて、先端に水色の石のようなものまで付いていた。その石の部分が頭部に当たり地味に痛い。
「い、痛いだろぅ! そんな凶器どこから持って来たんだ!?」
思いっきり殴られれば死ぬかもしれない。翌朝のニュースで、『本日未明、鷹尾で殺人事件がありました。男性は鈍器のようなモノで頭部を強打され……』なんて、洒落にもならない。
女の子が持って歩くような代物じゃない。コスプレならコスプレらしく、せめてプラッチックとかの張りぼての杖を持ちなさい! そう言ってあげたい。
「あなたが私の質問に答えようともせず、素通りしようとするからですょぅ!」
女性を見ると、下唇を可愛く噛み、上目遣いで涙を眼尻に溜めそう言ってくる。 ──おいおい、泣くほどの事か?
俺は、その姿を見て、頭をさすりながらまた渋々対峙する。
「……」
「数人に声かけたけたのですけど……私の姿を見るとみんな無視して通り過ぎてゆくのです……ぐすんっ……」
女性は俺のスーツを震える手で掴みながら、弱々しくそう言って涙ぐむ。
……まあ、分からんでもない。俺もそうだったからな。こんな真夜中に痛いコスプレ女性と関わり合いを持ちたくはないはずだ。うん、間違いない。
「はいはい、分かった分かった、で、君はどこから来たんだ?」
仕方ないので少しだけ相手をしてあげることにする。
すると、パッと表情を綻ばせる女性。
「えっ、聞いてくれるのですか? やっぱり勇気を振り絞って声を掛けた甲斐がありました!」
出会う人出会う人に声を掛け、そのたびにスルーされる。半ば心が折れかけていたのかもしれない。
「私の名前は、エンデル・スカ・ゴーデンバーグ。聖教国エロームの大賢者ですょ!」
えへん、と胸を張りそう言う女性。だが、いかんせん小さすぎる。胸を張っても少ししかその膨らみが分からない。
「…………そっか、んじゃ頑張れ」
俺はそのいかにも妄想全開な名前と国名、肩書を聞いて、やっぱり聞くんじゃなかった、と後悔する。そして再度背を向け歩き出す。
「ちょちょちょちょ、ちょっと~~~~っ!! 捨てないでぇ~~~っ!!」
女性はそんなことを言いながら俺の背中に纏わり付いてくる。
「うお、うおい~っ! なんか誤解されるような言葉を吐くなっ!! 最初から捨てられるような関係でもないだろっ!! 初対面だしっ!!」
「だってぇ~、見捨てようとしているじゃないですかぁ~」
「ま、まあそうだけどさぁ~……」
「お願い~見捨てないでください~っ!!」
必死に俺にしがみ付き、おいおいと泣き出す長ったらしい名前の女性。
「ええい、離れろっ! 俺を君の妄想に引き込まないでくれ!」
「いやああぁ~~~~っ! 聞いてくれるまで放してやらないんだからぁ~~~~っ! ええええ~ん!!」
大声で泣きながらそんなことを言う女性。
すると近くの家の窓がガラッと開けられ、
『うっせーな! 今何時だと思ってるんだ!! 痴話喧嘩なら他所でやってくれ!!』
と近所の人に怒鳴られた。
「う、す、すいやせ~ん……」
「うえええええ~ん!」
「こ、こら、お前も泣いてないで謝れ!」
「ず、ずびばぜ~~~~ん……」
そう二人で頭を下げて、気まずいのでその場を後にし、訳の分からない女性を連れ俺の住む安アパートへと向かった。
結局、関わってしまった……。
この後、俺の人生がこの奇妙な出会いで大きく変わることなど、この時は少しも考えていなかったのである。
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