【 擬態 ― mimicry ― 】

玄関の前で鍵を開けようと

ポケットを探っていたら

いきなり足元の落ち葉が舞い上がった

予測していなかったので 

わたしはすごく驚いた!


よく見ると

それは一羽の蛾だった

木の葉によく似た蛾

飛んだから蛾であると分かったものの

あの蛾が木に止まっていたら

見抜けなかっただろう

枯れ草の中に紛れていたら

絶対に分からない

それは見事な擬態であった


 ― mimicry ―


『擬態』という不思議なの生態

進化の過程で生まれた能力だろうが

なぜあれほどまでに

違うものに成りすまそうとするのか

それが生きる術だったんだろうか


人はどうだろう?

やはり擬態するのだ

集団の中にあって

目立たないように

人の意見に合わせて自己主張しないように

「仲間」という人の群れの中に擬態している

そうすることによって

他者からの攻撃をかわす

それを『隠蔽的擬態いんぺいてきぎたい』という


また ある時は

仲間の振りをして

虎視眈眈とチャンスを窺っている

誰かがつまずこうものなら

いきなり毒牙を剥きだし攻撃をする

徹底的に相手を叩きのめし

そのポジションを奪おうとする

政治家たちの権力争いがそうだ

浅ましき生き物の性

それは『攻撃擬態こうげきてきぎたい』というらしい


 ― mimicry ―


この不思議なの生態について

一羽の蛾を通じて考えてみた

擬態はしょせん卑怯な技のように思う

きっと 私も弱い自分を隠すために

いろんな擬態を繰り返しているのであろう


もはや 隠れることが

一番の自己主張だったりする

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