シャツが出ている

「佐藤さん、またシャツが出ていますよ。」


 ああ、またシャツが出ていたのか。今日、3度目だ。


「ちくしょうっ!」


 私は叫んだ。


「ちくしょうっ!!ちくしょうめっ!!」


 オフィスに響く私の声。みんな静かにパソコンに向かっているのに。


「ちくしょうっ!!ちくしょうっ!!ちくしょうっちくしょうっ!!」


 目から涙が溢れてくる。


「ちくしょうちくしょうっちくしょうっ!!ちくしょうっ!!」


 オフィスの社員たちがちらちらこちらを見てくる。冷めた目で眺めてくる。私は無力だ。私はシャツが出ている。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。


「ちくしょうちくしょうっちくしょうっ!!ちくしょうっ!!」


「うるさいっ!!」


 部長が叫んだ。


「悔しがるなっ!!」


 くっ.....くそっ.....。


「うっ...うぅっ......うううっ.....。」


 私は一人、声を噛み締めて涙を流した。悔しい。悔しい。悔しがってはいけなくたって、悔しいものは悔しい。


「悔しがるなっ!!」


 再び罵声が響いた。そんなこと言われたって、悔しいものは悔しいんだ。ああ、ああ。

 ギリギリギリギリ、私は歯を食い縛る。


「悔しがっ」


「まあまあ。」


 高木さんの声だ。高木さんは優しい。みんなのお母さんのような存在だ。部長も高木さんには勝てないはずだ。


「まあまあまあ、そんなに怒らなくても、悔しがったっていいじゃないですか。」


「あっああ、高木さんがそういうなら.....。」


 部長は渋々引き下がった。


「佐藤くん、悔しがってもいいのよ。」


 ああ、高木さんは優しい。


「ちくしょうっ!!ちくしょうちくしょうちくしょうっ!!」


 私は悔しがった。


 完

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