杉田さん
退職だ。不名誉な退職だ。なんてったって不名誉だ。だってだって部長の杉田さんが辞めるっていうから辞表を提出したのに、杉田さんやめないっていうんだもの。ひどいよねぇ。杉田さんは小太りの中年なんだけどさ、素敵なんだよ。パン屋でパンを買うときにね、パンパンパンパンってはしゃぐの。子供みたいに。信じられますか?なんなんでしょうねほんと。ムキーッ。なんか腹立ってきたなあ、もう。
「杉田さーん!!なんでやめないんですかー!!辞めるって言ってたじゃないですかーっ!!」
「ええ、そんなこと言ってないよ。言ってない。言ってない。一言も言ってない。」
杉田さんはキョトンとしている。嘘を言っているようには見えない。杉田さんは正直者だ。何年も一緒に仕事をしてきたのだからわかる。なんせ杉田さんが辞めるって言ったら私も仕事をやめるくらいなのだから。全部お見通しだ。本心を言っているのだ。
「本当に言ってないのですか?」
「うん、本当だよ。本当。」
えぇ、じゃああの杉田さんは誰だったんだ....。杉田さんじゃなかったのか.....。
あの夜、私は一人牛丼を食べていた。松屋で。
パクパクパクパク
すると、
ドッシーン
隣に座ったのが杉田さん。
「わあ!!杉田さん!!」
「え、杉田さん?誰それ?ところで私は仕事をやめるよ。」
「へえ!!そうでしたか!!」
そう言えば杉田さんであることを否認していた。それに、別に杉田さんに似てもなかったな。
完
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