渋滞

 プップップー、プップップー


 渋滞です。お盆最終日、帰省ラッシュの渋滞です。大変だー、大変だー。


 プップップー、プップップー


 それはそれはもう大変だー。


 車はちっとも進みません。全然全然進みません。困ったな、困ったな。


「お父さん、車がちっとも進んでいませんね。」


 後部座席に座っているたか子さんが言いました。ツンとした声です。


「本当ですね。お父さん。」


 助手席に座っているお母さんも言いました。


「本当だー!!本当だー!!」


 お父さんはハンドルをぐるぐる右に左に思いっきり回しまくりながら言います。テンションがハイになっているようです。略してハイテンションです。


「本当だー!!本当だー!!」


 ぐりんぐりんぐりんぐりん


 すごい勢いで回しています。


「痛いー!!痛いー!!」


 痛がる前輪。止まっているのにぐるぐるされると地面とぐりぐりして痛いのです。


「本当だー!!本当だー!!」


 ぐりんぐりんぐりんぐりん


「本当だー!!本当だー!!」


 ぐりんぐりんぐりんぐりん


「お父さんやめて!!車輪が痛がっているわ!!」


「そうよ!!痛がっているわよ!!」


 たか子さんらが訴えます。


「や、やめて〜〜!!」


 お母さんは必死に止めに入ります。このままだとタイヤがパンクしてしまいます。


「や、やめなさい〜〜〜。」


 助手席から手を伸ばし、お父さんの手を掴みます。しかし、お父さんは意に返さずハンドルを回し続けます。さすが、マッチョです(お父さんは現役ボディービルダーなのだ。)。


「本当だー!!本当だー!!」


 ぐりんぐりんぐりんぐりん


 お父さんはラリっています。


「本当だー!!本当だー!!」


 ぐりんぐりんぐりんぐりん


「たか子大変よー!!お父さんがラリってるわー!!」


 お母さんがたか子さんの方、後部座席を振り返って言いました。


「困ったわー!!困ったわー!!」


 たか子さんは困っています。困ったわー!!と言っています。


「本当だー!!本当だー!!」


 ぐりんぐりんぐりんぐりん


 お父さんは相変わらずラリっています。


「このままだと、タイヤがパンクしてしまうわー!!」


 母さんは焦っています。


「どうしてー!!どうしてラリっているのー!!」


「本当だー!!本当だー!!」


 ぐりんぐりんぐりんぐりん


 止まらないお父さん。


「困ったわー!!困ったわー!!」


 困っているたか子さん。


「痛いわー。痛いわー。」


 痛がっているタイヤ君。


「ウゥ〜、もうダメかもしれない〜。もう、ダメかもしれない〜。」


 お母さんは頭を抱えています。どうすれば、どうすればよいのだ。


「ダメかもしれない〜。ダメかもしれない〜。もう、ダメかもしれない〜。」


 正気を失いそうになったその時!!


「まさこや〜。」


 こ、これはおばあちゃん。おばあちゃんの声です。どこからともなく、死んだはずのおばあちゃんの声が聞こえてきました。


「お、おばあちゃん!!」


「そのとおり、おばあちゃんだよ。まさこ、久しぶりねぇ。」


 間違いない、おばあちゃんの声です。


「まさこや〜。あんたが諦めてどうするの。そんな子に育てた覚えはないわよ。最後まで諦めないで頑張るのよ〜。」


 久しぶりのおばあちゃんの声。勇気が湧いてきます。


「お、おばあちゃん...。ありがとう。私頑張るわ。」


「がんばり〜や〜.....。」


 帰っていくおばあちゃん。


 さあ!!


 目を開け現実に向き合うまさこさん。


「困ったわー!!困ったわー!!」


 困っているたか子さん。


「本当だー!!本当だー!!」


 ラリっているお父さん。


「痛いわー。痛いわー。」


 痛がっているタイヤ君。


 どうにかして、どうにかしてこの状況を打開しなければ。いけない。どうやって、どうやって....。


「困ったわー!!困ったわー!!」


 困っているたか子さん。


「本当だー!!本当だー!!」


 ラリっているお父さん。


「痛いわー。痛いわー。」


 痛がっているタイヤ君。


 どうやって....どうやって....。


「困ったわー!!困ったわー!!」


 困っているたか子さん。


「本当だー!!本当だー!!」


 ラリっているお父さん。


「痛いわー。痛いわー。」


 痛がっているタイヤ君。


 どうやって.....どうやって....。


「困ったわー!!困ったわー!!」


 困っているたか子さん。


「本当だー!!本当だー!!」


 ラリっているお父さん。


「痛いわー。痛いわー。」


 痛がっているタイヤ君。


 無理....私には無理.....。諦めかけていたその時!!


「まさこや〜...。」


「お、おばあちゃん!!」


 再びおばあちゃんの声が!!


「死んだはずのおばあちゃんがこんなに聞こえてくるなんて、もしかしたら私は頭がおかしくなってしまっているのかもしれない.....。」


 そう、この時すでにまさこさんの頭はおかしくなっていたのだ。


 bad end.


 完

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