チンパンビー

 ぶーんぶーん、ぶーんぶーん


 蜂になったチンパンジー、チンパンビーが飛んでいます。


 ぶーんぶーん、ぶーんぶーん


 至って普通の蜂のように見えますが、チンパンビーです。


 ぶーんぶーん、ぶーんぶーん


 幸せそうに飛んでいます。


 ぶーんぶーん、ぶーんぶーん 

 

 花の周りをぶーんぶん、花の周りをぶーんぶん。


「チンパンビーさん。どうしてチンパンビーになったの?」


 堪らない。堪らず、問うた。


「それはね、飛んでみたかったからさ。」


 ああ、そうか。飛んでみたかったのだな。私は感動した。チンパンジーだって、空を飛びたい。空を飛びたいのだ。うぅ、ううぅ。いい、いいなあ。


 ぶーんぶーん、ぽちっ


 おっ、私の腕に張り付いた。


「チンパンビー、刺してみたい。折角だもの。」


 チンパンビーが言った。


「え、やだよそれは。え、やだ。」


「うるさい、刺す。」


 ポチッ


「あがあああああああああ!!」


 痛いい!!痛いい!!


「ああっ、力の入れ方がわからない。ああ!!ああ!!どうやって止めるんだ。」


 痛いい!!痛いい!!


 ムクムクムクムク、ムクムクムクムク


 どんどん腕が腫れてゆく。まるで風船のように腫れていく。


 ムクムクムクムク、ムクムクムクムク


 あっという間に、入道雲みたいになってしまった。チンパンビーもこんなにするつもりはなかったようだ。うまく抜くことが出来ず、焦っている。


 ムクムクムクムク、ムクムクムクムク


「ぶばぁっ!!やっと抜けた。ああ、ごめんよ。こんな腕にしてしまって。」


 謝るチンパンビー。いつもの10倍くらいになってしまった私の腕。全く、なんてことをしてくれたんだ。そのとき!!


「助けて〜!!追い剥ぎよ〜!!」


 若い女性の声。


 ドドドドドドッ!!


 ガタイのいい男が、高級バッグを掴んで走ってくる。


 ドドドドドドッ、ドドドドドドッ!!


「止めて下さい〜!!追い剥ぎよ〜!!」


 周囲には誰もいない。止められるのは私だけだ。やるしか、やるしかない。


 男が迫ってくる!!


 ドガーーーーンッ


 ラリアットオオオオオオオオオ!!


 あがぁっ!!


 男は転倒した。ガタイのいい男。到底ひ弱な通常時の腕では敵わなかっただろう。この腕、チンパンビーが太くしてくれたこの腕のおかげだ。泡を拭いて倒れている男。


 たったったったっ、たったったったっ


 花のように美しい女性が駆け寄ってくる。


「あっ、ありがとうございました!!このバッグは、両親の形見なのです。ありがとう!!ありがとう!!」


「いえいえ、それ程でも。うふふふふ、うふふふふふ。」.


「これ、よかったら。連絡先です。」


 顔を赤く染め、少女が紙を渡してくる。


「あ、ど、どうも。じゃあっ!!」


 走り去っていく少女。紙を開く。


『警察 110』


 完

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