時計、さようなら

「はい、みなさん。1時間目は国語です。教科書を開いてくださいね。」


 眼鏡をかけた貴子先生がいいます。教室のみんなに言います。


「はーい!!」


 みんな元気に返事をします。しかし、


 チッ


 反抗的な音が聞こえました。


 チッチッチッチッ


 これは、時計でしょうか。先生はプンプンしているようです。


「誰ですか?舌打ちしているのは?」


 チッチッチッチッ、チッチッチッチッ


 時計、秒針は音を鳴らし続けます。


 チッチッチッチッ、チッチッチッチッ


「誰ですか!!やめなさい!!」


 チッチッチッチッ、チッチッチッ


 時計は止まりません。時計ですから。健気に秒針を鳴らしています。


 チッチッチッチッ、チッチッチッ


「誰ですか、誰ですか.........?」


 先生は耳を澄まします。緊張感。張り詰めた教室。


「誰だっ!!誰なのだっ!!」


 先生はもう暴れ牛のような表情。今にも化け物に変身してしまいそうです。


 チッチッチッチッ、チッチッチッチッ


 時計は呑気になり続けています。しかし、先生はまだ気付いていないよう。目を血走らせて教室を見渡しています。ですが、、、どうやらたかしくんが、気付いてしまったよう。ソワソワしています。


「誰だーっ!!誰なんだーっ!!」


 先生は体をブルブルねじ曲げながら通路を練り歩いています。


「誰なんだーっ!!誰なんだーっ!!」


 火を吹きそうです。


 チッチッチッチッ、チッチッチッチッ


 時計はなり続けています。たかしくんは心配そうです。


「誰なんだーっ!!誰なんだーっ!!」


 メラメラメラメラ、メラメラメラメラ


 なんと言うことでしょう。熱が発せられているのか、周囲が歪み始めました。恐ろしい、恐ろしい。


 チッチッチッチッ、チッチッチッチッ


 時計は健気になっています。見つかったらどうなるかわからない。心配だ、心配だ。


「しーーーっ!!しーーーっ!!」


 たかしくんは時計の方を見て『しーーーっ!!しーーーっ!!』しました。


「んっ!!」


 しまった!!


 たかしくん、しまった!!その様子を先生に見られてしまったのです。たかしくんの視線の先を見つめる先生。そこには壁にかかった時計が。


 チッチッチッチッ、チッチッチッチッ


「お前かーーーーっ!!」


 ゴオォオォォオオオオオオオ!!


 先生は口から火を吹き、時計を焼き始めました。


「大変だ!!用務員の先生に知らせなくちゃ!!」


 タタタターッ!!


 教室の隅の妙子さんは急いで外にかけていきました。


 タタタタターッ!!タタタタターッ!!


 ゴオオオオオオォオオオ!!


 炎に包まれ確認することもできません。しかし、狙いすました見事な火炎放射です。


 タタタタターッ!!


 来ました。帰ってきました。用務員の美沙さんを連れて帰ってきました。赤いジャージを着た元気なおばさん。


 ゴオオオオオオォオオオ!!


 先生はまだ火を吹き続けています。


「あら、どうしたんですか先生。何かあったんですか?」


 ゴオォオォォオオオオオオオ!!


「先生、聞いてください。」


「あら、美沙先生。」


 先生は冷静さを取り戻し、澄ました顔をしている。時計はもう、よくわからない炭になってしまっている。


「この時計が舌打ちして挑発してくるものですからつい、熱くなってしまって.....。」


 頭をかきながら恥ずかしそうに話す先生。


「あらそうだったのね。じゃあ、新しい時計を準備しましょう。」


 そう言って美沙さんは教室を飛び出していきました。


 タタタタタターッ!!タタタタタタターッ!!


「はいっ。これからはこれを使ってください。」


 あっという間に帰ってきた美沙さん。手には字で表示される、デジタル時計が。


「ありがとうございます。この時計は舌打ちすることないですものね。」


 先生はニコニコ。人はこれを、進歩と呼ぶのだ。


 完

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