水族館デート

 隆くんと里子さんはデートに来ています。水族館デートです。色とりどり、色んな魚が泳いでいます。すごいです。すごいです。


「いろんな魚がいる。鮭だね。イカだね。タコだね。ウニだね。サンマだね。サメだね。ペンギンだね。ワカメだね。水だね。トイレだね。靴だね。床だね。」


 里子さんは見たものを羅列し続けています。楽しそうですね。


「羅列してるだけですね。」


 隆くんはキレ気味です。


「あ、アシカショーだっていきたいな!!」


 隆くんが言いました。見ると、お知らせコーナーに『みんなで楽しいアシカショー!!16:00から!!』というポスターが貼られています。灰色の可愛いアシカが楽しそうに青、赤、黄色のボールをツンツンしているイラストもあります。


「あれはアシカショーのお知らせだね。」


 里子さんが言いました。


 〜〜〜〜〜


 ブーーーーーーーー!!


 開演のブザーが鳴り、いよいよアシカショーのスタートです。わくわくするな。わくわくするな。


 ベージュ色の波波したカーテンが徐々に開かれていきます。映画館のようです。電気が消され、辺りは暗くなってきています。


 わくわく、わくわく


 カーテンが開き、ステージが露わに。スポットライトがステージ中央にたかれています。しかし、そこにはなにもありません。


 んん?んんんん?


 動揺する客たち。すると、ゴロン!!


 なにかが落ちてきました。なんだろうか、細長い肉塊のようなものです。アシカではありません。アナウンスが鳴ります。


「ジャジャーン!!これは足か?」


 無邪気で明るいお姉さんの声。しかし、どこか不気味です。どうやら、「アシカショー」ではなく「足か?ショー」のようですね。


「あれは、腕だね。」


 里子さんが冷静に言いました。


「これは腕だー!」「腕だよー!!」「腕じゃないかなー!!」


 みんな、腕だと言っています。


「こんなんグロテスクだー!!やめろー!!やめろー!!」


 いつの間にか、里子さんは喚いています。


 再びカーテンが閉じられます。再びアナウンス。


「答えはバツ。先ほどのは腕でした。」


「やったーー!!」「当たったー!!」「僕すごいでしょお父さん!!」


 みんな、当たったので喜んでいます。


「グロテスクだー!!やめろー!!中止しろー!!」


 里子さんは抗議しています。必死です。命がけの様子です。


 ブーーーー!!


 再びカーテンが開きます。そこには、男の生首が。ごろんと、広い家に一人きりみたいな、寂しそうに転がっています。


「これは、足か?」


 明るい、素っ頓狂な声です。明後日の方向を見ています。


「あれは、頭だ。」


 里子さんが冷静に言いました。


「あれは頭だ。」「頭部だろうな、足ではない。」「脳みそだろう。」「答えはバツだ!!」


 人々はぶつくさ言います。


「倫理的にどうなんだー!!やめろ中止だー!!ブーブー!!ブーブー!!」


 いつの間にか、里子さんは喚いています。


 カーテンが閉じられます。アナウンスが鳴ります


「答えはバツ。あれは、頭部でした。」


「いえーーーーい!!」「また当てちゃったもんねー!!」「やったやったー!!」


 みんな喜んでいます。喜んでいていいですね。


「だめだろこんなのー!!ふざけんなよー!!」


 里子さんは怒っています。


 再びカーテンが開きます。


「開くな開くなー!!」


 里子さんは怒っています。


 ゴロン


 足が、落ちています。


「これは、足か?」


 いつも通りの声です。


「あれは、足だね。」


 里子さんは冷静です。


「あ、足だ!!」「足だよ足!!これ正解じゃん!!」「足!!足!!」


「早くやめろー!!!!ふざけるなー!!」


 いつのまにか、里子さんは怒っています。


 再びカーテンが閉じられます。


「答えは丸。先ほどのは足でした。」


 ワーワーワーワーワーワーワーワーワーワー


 喜ぶ人々。


「はい、本日のショーは終わりです。このショーには死刑囚の死体を使っています。皆さん気をつけて帰ってくださいね。」


「そうなんだ。死刑囚ならいいのだ!!」


 里子さんは許しました。みんな帰路に着きます。


「しかしなんで、こんなことを始めたのですか?」


 隆くんは聞きました。


「アシカが死んだので、足か?ショーを始めましたよー。」


 へえ。亡きアシカに合掌。さあ、帰ろうかな。出口に向かって廊下を進む。周りはさっきまで『足か?ショー』を楽しんでいた人々で溢れている。


「楽しかったね!!最初の腕さ、実は僕足かと思っちゃってたんだよね。いやあ、恥かくところだったよ。」


「ははは、それは危なかったねぇ。間違えなくて、よかったねえ。」


「ほんとほんと。実は頭もさ、足だと思っちゃったんだよね。」


「へえ、全部足に見えちゃうんだねえ。やったねえ、やったねえ。足に見えちゃって、やったねえ。」


「へっへーんだ。また来たいなあ。」


 楽しそうな親子だ。楽しそうでいいな。


 ズシッズシッ


 お、前から何か歩いてきているぞ。なんか大きな、、獣?つるつるしてヒゲが生えている。ヒレみたいな両足、、、あれは、アシカじゃないか。いるじゃないか。


「あの!!アシカがいますよ。生きていますよ。」


 私は大声で水族館の職員に呼びかけました。


「本当だ。アシカがいる!!生きていたんだ!!呼んでみよー!!アシカー!!」


 アシカ「あっしか?」


 完

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