悲しい話
彼女が鼻をかむように料理をしている。
今日はお家デートだ。お家デートなので、彼女が料理をしてくれている。しかし、おぼつかない手付きだ。今にも手を切ってしまいそう。人参を切り始めてからもう一時間以上経っている。
「ああもう嫌だ。料理なんか嫌だわ。だって、手を切りそうだもの。」
そんなことをぶつぶつ。しかし、手を止めない。俺の彼女は口では嫌だ嫌だいっても、やり続ける、諦めない。俺はそういうところに惹かれている。ちなみに私はリビングでテレビを見ている。
カサカサカサ
ゴキブリだ!!ゴキブリが歩いているぞ!!大変だ!!気持ちが悪いぞ!!大変だ!!
「彼女、ゴキブリがいるよ!助けて頂戴!」
私は彼女に助けを求めた。
「なあにもう、しょうがないわね。せっかく料理をしているのに、もう。」
そういうと彼女はキッチンを離れダイニングに来てくれた。
「ああ、あれね。あのゴキブリね。」
今にもゴキブリを処理してくれそうだ。
「うぅ、ありがとう。」
私は彼女の後ろで泣きそうになりながら、ゴキブリを見つめる。すると彼女は胸ポケットに手を入れ、何か取り出す。小さな箱、どうやらマッチのようだ。マッチ箱からマッチ棒を取り出し、火をつけそうだ。
「まさか、焼き殺すつもりかい?そんなことして大丈夫なのかい?」
「大丈夫、いつもこうしてるから。心配いらないわ。」
そういうと彼女は、ゴキブリに火をつけた。
ボゥッ
ゴキブリは見事に焼死した。
「すごい〜。」
私は彼女を褒めた。しかし、火が部屋に広がっていく。
「ええ、大丈夫なのかい?」
「大丈夫、いつもこうしてるから。」
そういうと彼女は部屋の隅にあった消火器を手に取ると、ハンドルを握った。
ボーボーボー
消火器から、炎が出てきた。いや、火が出ているのだから消火器ではないのか。部屋はあっという間に火の海に。
「ねえ、火が出ているよ。どうしたの。止めなよ。」
「これは火ではない。ファイヤーなのだ。」
彼女は言った。凛々しい。
「なに言ってるの。火とファイヤーは同じものだよ。」
「なにを言ってるのだ。火とファイヤー、全然違う発音じゃないか。」
「シニフィアンは同じだけど、シニフィエは違うよ。」
「なんなのだその、シニフィアンとかシニフィエとか、なんなのだ。」
「ええと、シニフィアンというのは、、、」
ボボボボジュワワー、アッヂッヂー
私は焼け死んでしまった。しかし彼女は死ななかったようだ(彼女は炎の魔人だった。)。彼女からすると、私はゴキブリのようなものだったのかもしれない。
完
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