何者

 大学三年生、そろそろ就職について真剣に考え始めなければならない。

 そう思っていた矢先、大学内で無料で適性診断をしてくれるコーナーを発見。丁度いい、やってみようかな。

 私の前では人当たりの良さそうな茶髪の女が診断を受けていた。接客業が向いていると診断されたらしい。確かに元気が良さそうで、向いていそうである。なかなか信頼できる診断のようだ。

 私の番がやってきた。担当者である小太りの中年男性と向かい合い、アンケート用紙を渡される。アンケート用紙に、私の性格特性や行動規範を質問される。私は淡々と答え続け、数分で最後の質問まで答え終わった。男に私の回答を渡す。男はいった。

「あなたは、モグラの適性があります。」

 やはりか。私は思った。私は小さい頃から土中に潜ったり、ミミズを食べたりするのが大好きだった。しかし、将来的にモグラになるのは現実的ではないと、最近はそのような行動を慎んでいたのだ。

「ありがとうございました。」

 私は礼を言い、席を立った。

 久しぶりに潜ろうか。私は大学裏の地面から潜った。久しぶりの感覚だ。土と体が密着する感じ、気持ちいい。気持ちよく潜っていると、ミミズ発見した。パギュ、パギュパギュ。非常に美味である。モグラになれたら毎日こんな生活ができるのだろうか。しかし、、、、、


 私は人間だ。人間としてこの世に生を受けた。私が今からモグラになろうとしたところで、完璧なモグラにはなれない。誰も僕自身になれないように、モグラ以外の生物はモグラになれないのだ。仮にモグラとして認められたとしても、きっとモグラランキングは最下位だろう。


 次の日私は、例の中年男性に相談しに行った。

 男は言った。

「君は自分が人間である、と考えている。しかし、君が人間であるという確証はない。もしかしたら、君は自分が人間であると思い込んでいるだけなのかもしれない。君の両親や友人も、君が人間であると思い込んでいるだけなのかもしれない。もっというと、君はあなたの両親や友人、私のことを人間だと思い込んでいる。しかし、本当のことはなにもわからない。みんなまな板の人間型かもしれないのだ。真実は君の脳において作られ、それが君の真実となる。普遍的な真実がこの世に存在しない、君にとっての真実とは、君の世界なのだ。よって、君はモグラになれる。思い込みによって、君はなんにでもなれるのだ。」

 スッキリ、さわやか、さわやか、さわやかやかやか。

「ありがとうございました。」

 僕は昨日と同様あいさつし、席を立った。

 僕は、モグラになる。


 帰宅後、大切な話がある、と両親に集まってもらった。心配そうな顔で二人は集まってきた。

「僕はモグラになる。」

 父は激怒した。

「俺はお前をモグラにするために育ててきたんじゃねえ。」

 母は涙を流した。

「たかし、目を覚まして。」

「僕はあなたたちの奴隷じゃない。僕は自分の信じた道を行くよ。」

 僕は席を立ち、地面に潜った。


 数日経った。モグラ生活、苦しい。モグラ達に、なじめない。やっぱり、公務員になろうかな。


 私は、公務員になった。やはり、人間は人間であるのだ(多分)。


 完

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