第27話 第十一幕 インスマスの再興(5)

 その言葉を聞いた直後だった。出発を促す

オーンの行動は不可解だった。荷物も何も持

っていなかったのだ。不審に思って浩太が彼

に問いただそうとした。しかし、その言葉は

発せられることはなかった。


「どうしたの?具合でも悪い?」


 崩れ落ちた岡本浩太に思わず駆け寄る風間

真知子だったが、彼女もまた崩れ落ちるよう

に倒れた。


「今頃効いてきたのか、彼らにはもっち強い

薬が必要なようだ。」


 先に浩太を移動させようと抱えながらオー

ンが忌々しそうにつぶやいた。



「うっ、ん?」


「気が付いたかい?」


「あ、綾野先生、どうしてここに?。という

より、僕はどうしてしまったんですか?」


「君と彼女はウィリアム・オーンに睡眠薬を

飲まされて拉致されようとしていたんだよ。

私と結城君でなんとか助け出したけどね。」


「そうだったんですね。彼女も無事ですか?」


「大丈夫。彼女の方が先に気が付いて、もう

星の智慧派の人間が連れて行ったよ。」


「そうですか。やっぱり彼女は星の智慧派に

戻ってしまうんですね。もしかしたら、こっ

ちに来てくれるんじゃないかと思っていたの

ですが。」


 浩太は残念そうに言った。自分の中に芽生

え始めていた好意に気が付いていたのだ。


「彼女は風の民だそうだから、星の智慧派に

忠誠を誓っている訳でもないと思うが、彼女

次第じゃないかな。無理やり連れていかれた

様子ではなかったけれどね。」


「誰が迎えに来ていましたか?」


「例の火野という青年だったよ。いつも二人

ペアで行動していたようだが、ここには一人

で来ていたんだね。」


「火野君はセラエノに行っていたはずです。

置いていかれたと彼女が言っていました。向

こうで何か見つけて戻ったのかもしれません

ね。」


「そうか、それは場合によっては大事になる

かも知れないな。マークからは特に何も連絡

はないんだが。」


 火野将兵がセラエノ大図書館に行っていた

のだとしたらマーク・シュリュズベリィやマ

リア・ディレーシアとも接触しているはずだ

った。それほど広い場所でもないと聞いてい

る。


「君の体調が戻ったら、一度日本に戻る必要

がありそうだね。」


 なぜ戻らないといけないのか、その意味は

浩太には判らなかったが、久しぶりの日本は

嬉しかった。

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