第20話 第十幕 交差する運命(2)

 ミスカトニック大学附属図書館の館長はク

レア=ドーン博士のままだった。岡本浩太は

ドーン博士と綾野祐介との縁で相当優遇され

て稀覯書の閲覧を許されていた。ただ、浩太

の語学力では限界があった。


 一方、風間真知子は学歴があった訳ではな

いが元々語学は得意だった。ただ、いずれの

言語にしても基礎がなってなかったので、そ

こから始めなければいけなかった。


 岡本浩太が日本語に翻訳した稀覯書を真知

子は読み漁った。浩太が日本から持ってきた

綾野祐介が翻訳した本もあった。


 様々な稀覯書は、その殆どのものが難解で

あった。まず発禁処分を受けている本が多い

のですべてがちゃんと揃っている方が珍しか

った。散逸してしまっている部分が多くある

本は前後の繋がりが判らない。気を付けない

といけないのは、その前後によって全く意味

が違ってしまうことがあるのだ。本によって

は、それを間違って伝えるため態と一部を抜

き取ってある本すらある。何かを召喚する呪

文などは暗号化されていることも多い。すぐ

に読み解けるようでは、召喚されたもので世

界が溢れてしまうだろう。


 『ネクロノミコン』は取分け難解だった。

ミスカトニック大学にあるものは現在では誰

も閲覧できなくなっている。浩太が読んでい

るのは、フランシス=モーガンJr.人類学

部准教が英語に翻訳したものだが、肝心な部

分は伏字になっている。召喚の儀式など実施

されれば大変なことになるからだ。儀式に必

要なものや召喚呪文などは厳重に管理されて

いる。


 浩太は旧支配者たちを召喚したり封印を解

こうとしている訳ではないので、特に問題は

なかったが、正確な情報を持っていないと各

々の眷属や邪教の信者たちが行う儀式を阻止

するには心もとなかった。


 附属図書館に所蔵されているのはラテン語

版なので浩太の語学力では太刀打ちできない

からとりあえずは英語版を読み解くしかなか

った。


 風間真知子は語学の勉強と並行して、岡本

浩太は既にあるいくつかの稀覯書の日本語訳

をより正確なものにするため日々を重ねてい

た。



 


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