第2話 キマちゃんと靴下
私が一番最初にされた自慢の記憶。
それが靴下。
幼稚園へ通う前の慣らし保育として同じ保育園に
一年通ったキマちゃんと私。
保育園では靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ遊ぶ。
(滑っての転倒防止などの理由から)
かわいい靴下をはいて来ても
園に着くとすぐ脱がないといけない。
それでもキマちゃんはいつもレースの靴下をはいてくる。
保育園におしゃれしてきてるつもりなんだろう。
そしてキマちゃんは脱いだ靴下を振り回し
みんなに自慢する。
「キマちゃんの靴下かわいいねん!
キマちゃんかわいいのしか持ってないねーん!
ママがいつも買ってくれるねん!」
…嘘。
幼馴染だもん。知ってるよ。普段はキャラクターの靴下はいてるの。
それはそれで私に
「キマちゃんの靴下見てー!かわいいやろ!
セーラームーン!ミオちゃん持ってないもんなぁ!
ママ買ってくれへんの?キマちゃんのママ買ってくれるで!」
って言ってたじゃん。
((あ、今さらですが私(みおこ)です。))
「キマちゃんいいなぁ!」
この言葉こそキマちゃんを最も喜ばせる魔法の言葉。
そのためならくだらない嘘だって平気。
それがキマちゃん。
同じマンションだと当然、毎回一緒に登園する。
その度に自分と比べられるようで嫌々していた。
そんなある日、キマちゃんの靴下が事件を起こす。
この日のキマちゃんの靴下はいつもよりもキラキラ。
レースに施されたビーズ飾りが光に反射して良く目立つ。
園に向かう間も自慢が止まらない。
今日は園でお歌の発表会。両親が見に来てくれる日。
親は写真やビデオを撮ったりなんかして
思い出に残る大切な日。
そりゃあキマちゃんの靴下も気合いが入る。
だって今日は上履きを履くから靴下脱がなくていいもんね!
園に着いて部屋に入るとみんないつもよりおしゃれさん。
私だって実は新しいヘアゴムなんだ。
キマちゃんには
「それ、キマちゃんの方が似合うのにー」
って言われたけど…
キマちゃんは自慢癖のせいかクラスのリーダー格。
登園すると自ずと注目が集まる。
誇らしげに教室に入ったはずなのに
キマちゃんの顔はみるみるうちに真っ赤になった。
誰よりかわいい靴下のつもりが
同じ靴下の子が3人も。
きっとどの子も親が駅前の百貨店で
この日のために用意したのだろう。
ここでキマちゃん動く。
同じ靴下の子に近づきビーズを千切る。
普通に考えれば完全に奇行。
でもキマちゃんは止まらない。
クレヨンを持ち出して
自分の靴下に無理やり色を塗りだす。
先生たちが慌てて止めようとすると
キマちゃんは泣き叫びながら
「キマちゃんのが一番なの!キマちゃんのが一番かわいいの!
キマちゃんだけがかわいいの!」
靴下を引っ張られた子たちも泣き出して
教室はあわや大惨事。
歌の発表会どころじゃない。
先に会場でカメラの準備をしていた親たちも
泣き声を聞きつけて続々と教室へ。
泣いてる子、暴れるキマちゃん、状況の読み込めない親たち。
すごい光景。
…その時の私?
眉毛をハの字に困った顔して心で笑ってた。
だってキマちゃんの自慢が失敗したから。
結局その日は全員裸足で歌った。
数人が目を赤くしたままだった。
その中にはもちろんキマちゃんもいた。
帰り道のキマちゃんは
クレヨンで汚れた靴下をはきながら
「みんなキマちゃんのマネするから嫌い。」
と言っていたあたり
やっぱりキマちゃんは強いと思った。
今でもあの日の写真を見ると笑いが出る。
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