八章 魔道剣鬼
国崩
イーニアス王国は現在、崩壊の最中にある。
十八日前、王子オーウェン・イーニアスが戦に反対する民衆を鎮め、晴れてベルンフリート帝国との戦争に踏み切ったイーニアス王国であったが、その戦況は実に惨憺たるものであった。
国王アーチボルドは王子が民衆を鎮めたと聞き、すぐに増援部隊を関所へと向かわせた。民衆の反対の為に向かわせることが出来なかっただけであり、出撃の用意は万全であった故その行動は敏速であった。。
しかし隊が着くころには既に関所はベルンフリート兵団により制圧されており、関所奪還の為に攻撃を掛ける増援部隊であったが、関所に元から配備していた大型弩砲と、新たに持ち込まれた火砲による防戦を展開するベルンフリート兵団に手も足も出ず、七千人中三千人余りの犠牲を出し撤退。
これにより、東方を海に、北方と南方を山に囲まれたイーニアス王国は他国よりの支援を遮断されることとなった。
次いで、アーチボルドは早急なる関所の奪還のために攻城兵器を運搬、運用する攻城部隊と、それを護衛する護衛部隊を関所へと向かわせるも、途中ベルンフリート帝国の侵攻隊と遭遇。
攻城部隊は機動力を重視して城攻めの装備のみで、対人の装備は最低限のものしか持たされていない。そのため、この時の戦いは護衛部隊が行うこととなった。
護衛部隊とベルンフリート侵攻隊の人数は同等。だが、チェインメイルなどを筆頭に、比較的軽装の兵が多い侵攻隊に対して、護衛隊の装備は万全。護衛部隊の誰もが勝利を確信していたのだが‥‥‥。
結果は惨敗。多くの兵が殺され、攻城兵器と装備の鹵獲を許すこととなってしまったのであった。
何故、装備が万全であり、なおかつ兵士団と騎士隊の精鋭が居並ぶ護衛部隊が軽装の侵攻隊に敗北を期したのか。
その原因は、イーニアス兵が魔法技術について全くの無知であったことであった。
確かに、以前に起こった大規模火災事件。その首謀者が魔法という未知なる技術を使用して事件を起こしたと報じられたことはある。しかし国民のほとんどは、たとえ近衛騎士であろうとも例外なく魔法の存在について懐疑的であった。
当然そのような考えの者が実際に魔法技術を前にして、それに対応できる筈も無く。接近戦を仕掛けるべく走り寄る兵は、突如隆起した地面に足を取られ。それを見て足元に気を払う兵は、飛来する尖った氷塊に頭を撃ち抜かれ。フルフェイスヘルムを装備している兵は、氷塊と同じようにして飛来する炎弾に炙られたのである。
二回の敗戦に続くように、イーニアス王国は幾度とない敗北を繰り返し、とうとう国内にまでベルンフリート兵の侵攻の手が及ぶこととなったのであった。
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