決別
「出ていく‥‥‥だと?」
「ああ」
藪から棒にアーロンから出ていくと告げられたルーカスは、当然その表情に驚嘆を表わした。
「‥‥‥目的‥‥‥とやらの為か?」
数秒の間をあけて、ルーカスが恐る恐ると口を開いた。
「ああ、そうだ」
アーロンの眼には確かな決意が宿っていた。否、見せずしていただけであり、これまでもその決意を薄れさせたことなど
その決意を見て取ったのだろうか、ルーカスは一拍ため息をつく。
「俺個人としては‥‥‥お前にはここにいて欲しいとは思う。これは、俺が寂しいとかそういうことでは無く‥‥‥お前の顔が、見るに堪えないからだ」
「‥‥‥なに?」
その己の表情にアーロンは気が付いていなかった。確かに、目には煌々たる決意を湛えているが、しかし顔全体の表情は隠すことが出来ぬほどの怯えを表わしていた。
「やはり、自分では気がついていないのだな。お前、怯えているぞ」
「‥‥‥」
ルーカスの眼を真っすぐに見据えていたアーロンだったが、誤魔化すように下方へと視線を逸らした。
「お前の覚悟は疑わない。お前がどれだけその目的とやらの為に、努力をしてきたのかを、俺は良く知っているつもりだからだ。だがそれだけの覚悟を持ってなお、それほどに怯えているのだ。俺にはとても見てはいられん」
九年間の生活にて、ルーカスが如何なる情を自分へ持ったのかアーロンには分からない。しかし、それがどれだけの親愛の念であったとしてもアーロンは己の決意を違えようなどとは、露ほども思わないのであった。
「いや、俺は行く。俺が俺であるために、確認せねばならんことがあるのだ。それ
「‥‥‥」
「もし、邪魔立てするのであれば、例え師が相手だとしても俺は容赦しない」
それは明確な決別の意であった。
アーロンとて人の子である。いつぞや、商人達から引き取ってくれたこと、具体的な目的を教えず、ただ力が欲しいとだけ言うアーロンに魔操術を教えてくれたこと、そして今、引き留めてくれようとしていること‥‥‥そのどれに対しても感謝に堪えない心持である。
しかし、だからこそアーロンはルーカスに向かって決別を口にする必要があると感じたのである。彼の優しさに甘え、己の生きる意味を見失わぬためにも。
「‥‥‥愚か者め。ならば引き留めはせん。行くがいい」
口にする言葉は無かった。己から決別をしておきながら、何を言う事があるだろうか。
「‥‥‥」
アーロンは無言にて踵を返し、書斎を、そして坑道を後にしたのであった。兵士団の団長を倒し、兵士団長の座を簒奪するために‥‥‥アンジェラ王女がアンであることを確認するために‥‥‥。
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