第48話盗賊ギルドと暗殺者ギルドに楔を打ち込む1

 さて、俺はこちらの方から攻めていこうか。

 この王都には公式の盗賊ギルドとは別に、非公式の盗賊ギルドが存在する......所謂、暗殺者ギルドってやつだな。

 職業として認められた盗賊が登録する正規の盗賊ギルドには、当然だがそれ相応の戒律があるから犯罪紛いの事は出来ないのだ。

 対して、暗殺者ギルドはスリ、窃盗、強盗、暗殺、密売と何でもやるのが仕事である。

 

 俺はアーネストに仲介を頼んでいる盗賊ギルドへ向かっている。

 貴族用の豪華で華美な装飾が施された馬車は、内装もしっかりしており、座席に乗って揺られているとウトウトしそうになってくる。

 メェメェという羊のモンスターから取れる毛皮は、ふんわりモコモコでクッションに最適だ。座席にはこれがふんだんに使われているので、座ると体が沈み込む程柔らかい。

 この馬車には俺が教えたサスペンションが使用されているので、振動が軽減されて快適だ。


 「ケイが教えてくれた技術を形にするのは、職人達の技術と経験が肝になるからなぁ......もう少し時間が掛かるだろうが、これが実用段階まで進めば、我が国には莫大な利益が齎されるだろう」


 そりゃそうだ。軍事技術に転用すればこれまでに無い兵器を作り出す事も可能だろうし、金が有り余っている貴族達から金銭を毟り取るチャンスだ。

 莫大な値段を吹っかけて、各国の貴族達へ売りつければ飛ぶように売れるだろうさ。ともかく貴族という生き物は体面を気にするのである。

 他国の貴族が最新の技術が使われた革新的な馬車だと自慢すれば、技術目的は勿論だが、見栄を張る為に借金をしてでも購入しようとする絵がありありと浮かんでくる。


 「俺がアーネスト専用に作ったカスタム馬車なんだからな、奪われたりしないでくれよ?」


 ニヤリと笑った俺だが、アーネストも国王すら所持していない、最新の馬車を所有している優越感にニヤニヤした顔が戻らない。


 「これからの王国について考えると想像するだけで素晴らしい結末が見えるのだが、この馬車に乗った時のアリアの笑顔がな!いやぁ、ケイにも見せてやりたかったよ!俺の妻より美しい女なんかこの世界には居ない!ヌッハハハハハ!!」

 

 流石はアーネストだな。国内に留まらず国外まで轟く武名と愛妻家としての一面は、ここでも主張する事を遠慮しない......実際、アリアは美人という言葉では括れない美貌の持ち主だ。

 それにしても、ハイヒューマンだから見た目が20代後半に見えるが、アーネストは53歳のおっさんである。対してアリアは18歳......犯罪臭がプンプンするぜ!


 この男は、アリアの話題を振ると話が止まらないのだ。貴族という立場すら忘れて、一晩でも二晩でも延々とアリアに対しての自慢やら賛美やら信仰紛いの発言まで延々と垂れ流すのだ。

 まぁ、超絶レアな聖女なのだから、アリアたんマジ聖女!は間違いではないのだが......実際、イーリスと並ぶと名画が紙切れに見えるぐらい映えるんだよなぁ。

 自慢話を聞かされるのはうんざりなので、本来の話題へと話を移そうかな。


 すると空気を読んだのか、突然真面目な顔になったアーネストが話を切り出す。


 「国には必ず闇が存在する。これは人が人である限り無くす事は出来ない物だ。王国としても、盗賊ギルドは必要なものだし、表だって発言する事は出来ないが、暗殺者ギルドの存在を容認するというのが結論だ」


 スラムの住人や、犯罪者達を統括する暗殺者ギルドは治安維持の面でも陰ながら王国に貢献しているのだ。

 国を運営するには、清濁併せ呑む必要がある。

 世間的な悪を根絶する事は不可能なのだから、それを操作する仕組みが必要になってくる。それがインフィナイト王国における暗殺者ギルドの立ち位置なのだ。


 俺が実現しようとしている奴隷解放という目標は、この世界を回している人族が作り上げたシステムである、地位についての根幹に触れる物だ。

 これに関しては、異世界で生きてきた俺の中にはビジョンが浮かんでいる。実現する事は容易ではないだろうが、俺の力と知識と積み上げた努力で無理を通すつもりだ。


 「俺もそれについては否定しない。しかし、敵対するならば話は別だからな。今の内に立場をはっきりさせておく必要がある。俺が、俺の組織が何より優先されるという事実を突き付けておく必要がある」

 「はぁ、見た目は10歳のガキが、世界規模で語る世界改革論か......中身が200歳を超える爺さんだって知らなければ、俺だって笑い飛ばすんだがよぉ」


 「こいつを見せられちゃなぁ」と呟くアーネストの表情は希望に満ち溢れていた。

 異世界の知識で作られた物はこの世界には無い魅力に満ち溢れている。

 現代に生きる人間が魔法を見せられるのと同じだろう。科学という魔法を見せられた彼等にも我々が感じるような感動だったり、驚愕だったりという気持ちを与える事が出来るのだろう。


 話をしていたら目的に到着したようだ。

 酒場が併設されている冒険者ギルドのようなスタイルだ、ラノベにありがちな酒場のマスターがギルドマスターという線はなさそうだ。

 建物の奥から強者の気配がする。


 「ギルドマスターは奥だ、頭が切れるタイプだから喧嘩を売って来るような事は無いだろうが、多少の失言は許してやってくれ」

 「ははは、俺を何だと思っているんだよ。どこぞの公爵様じゃないんだから、流石に歯向かう奴は皆殺しとかしないってば......きっと、恐らく、maybe」


 会話をしながら奥へ向かう俺達だが、アーネストの顔が知れ渡っているのと、事前に訪れる事を伝えてあるので、案内役が先導している以外は席を外しているのか姿が見えない。


 先導役がドアをノックして入室許可を取ると、扉を開けて中へ迎え入れてくれる。


 「さっさと入んなよ。こっちはアンタ達が来るのを首を長くして待ってたんだ」


 中で待っていたのは30代位だろうか、妖艶な色香を放つ女性が足を組んで座っていた。

 ハーフパンツにTシャツというラフなスタイルだが、胸元を大きく開いてこちらを挑発するかの様にこちらを見ている。

 俺を試すつもりだろうか、ならば舐められたものだな。ならばこちらはその驕りを逆手に取らせてもらおうか。

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