桜散る雨の日

紫陽花

第1章 エイプリルフール

4月1日。2年ぶりに外へ出る。

桜のつぼみ。まだ冬の寒さが残っていた。...って言っても、去年も今年も外出てなかったから知らないんだけど...。

そういえば、この辺なんか変わったな。 2年も経ってるんだよな...。あの日から。

 「うっ・・・」

思い出しただけで吐き気が...。やっぱり帰ろう。外なんか出ても意味がない。

 「あっ...見つけたっ!」

え、お、俺...?...なわけないよな。 帰りにカップラーメンでも買って...。

 「えーっ!まさかの無視っ!? 許さないわっ!必殺っ!涼香ちゃんのドロップキック!!」

 「は?...え、ちょっと、うぇっ....」


___んっ...一体、何が。 確か...女にドロップキックを...した? 

いや、出来ねえ。だとすると....されたのか?

 「あの...女ぁ!!!」

 「あっ、あの!先輩。け、結婚してくださいっ!」

はぁ...結婚...。っ?! この子は何を言い出すんだ。アホなのか?初対面だよねっ? まず、この子誰よ。言ってる意味が分からない...。いや、分かりたくない。

 「っふふ! あははっ! 先輩もしかして馬鹿なの??」

いや、君だけには言われたくないよ...

 「エイプリルフールよ。こんなのに騙されるなんて...。まぁ、仕方ないから、結婚してやっても良いけどなっ!」

いや、即断りだろ。

 「悪いが、俺には宇宙一可愛い彼女がいる。結婚前提になっ」

...よしっ! 言ってやったぞ。どうだ! 彼女なんか居ないけど...。

こんな頭おかしい奴に付き合ってられるかっ!バーカ、バーカ。


 「そうなの...。とか言うとでも思った? 残念。それに、あんたに彼女?? 妄想もほどほどにしてよねっ! いかにも"してました!!!"って感じじゃない。」

初対面でこんなに失礼な女は初めてだ。呆れたわ...。

いや図星なんだよ。自宅警備してんだよな。俺。


―――帰ろう。

 「俺、帰る。親が待ってるから。」

 「えっ、えぇ。さよなら。」


外なんか出なきゃ良かった。ずっと自宅警備してれば良かったんだ。

あの日、彼女を守れなかった罰。外に出れないんじゃない。自宅警備員になりたかったんじゃない。

やり直し?そんなもの、俺には出来ない。彼女は、二度と帰ってこない。

分かってる。そんなの.....分かってる


だって、俺の彼女は2年前のエイプリルフールの日に線路に飛び込んで......死んだ。

俺は、あの時、彼女の腕をしっかり掴んで引き寄せれば...。

 

  「......涼香。ごめんな。守れなくて。」


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