第160話「何事も、練習あるのみ」
ザーリダーリ火山のふもと宿場町にて『勇者同行者選抜大会』が開催された。
俺とテオは、ニルルク魔導具工房長のネグントと共に、念のため大会終了までは町に滞在してこっそり様子を見ていたが、特に大きなトラブルも無さそうだった。
もちろん多少は不満の声もあったものの、後は冒険者ギルドや町の人々で十分対処できる範囲内だろうと判断。
翌朝には3人で宿場町を発ち、再び火山に登ると、中腹にあるニルルク村へと無事にネグントを送り届けたのだった。
というか俺たち、最近ほんと山を登り下りしまくってる気がするような……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1週間前に初めて現実の火山に登山。
→ボス討伐&ダンジョン浄化完了後、ふもとの宿場町の大会問題を解決しに下山。
→大会騒動解決への協力を、ネグントへ依頼するために登山。
→ネグントをふもとの町へ護衛しながら送り届けに下山。
→今回、ネグントを再度護衛するため登山。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……うん。
1週間で登山3回って、だいぶ多いぞ。
元々の予定だと、最初のボス討伐時に登った段階で、ザーリダーリ火山における全ての用事を済ませるつもりだった。
だけどふもとの宿場町が勇者来訪で浮かれてごたついてた関係で、何度も往復しなきゃいけなくなって。元はといえば俺たちが送った手紙が原因だし、放っとくわけにもいかなくてな。
ゲームのザーリダーリ火山でも、引き受けた
だけどやっぱりゲームでフィールドを行き来するのと、実際に山登りを体験するのは勝手が全然違う。
登る前には登山用ブーツに履き替える必要があるし、歩き方はもちろん戦い方も平地と斜面で変わってくるのだ。
往復が増えたぶん、否が応でも実戦が増えまくったおかげで、斜面でのバトルのコツがだいぶ掴めたこととかは良かったと思う。
*************************************
さて3回目となる今回の登山では、ネグントの護衛以外に“残していた用事”が2つあった。
その1つが、生産系スキルの研修。
先日の「火山の浄化を祝う宴」でネグントが約束してくれたものである。
生産系スキルは、武器や魔導具をはじめさまざまなアイテムの制作に使えるスキルだ。しっかり身に付けたいなら数年かけて基礎から学ぶ必要があるのだが、俺は別に本職の職人になるわけじゃないし、魔王との戦いを考えるとそこまでの時間はない。
そこでネグントが提案してくれたのが、数日で完了するという「観光客向けの短期コース」だった。
俺は宴の時点で既にスキル【
ネグントいわく「当面、急ぎの用事は無イかラ」と、俺の研修を優先してくれることに。村に帰った翌日は、朝からみっちりとアイテム生産の基礎を叩き込まれた。
ゲームの『生産モード』では、素材を選んで、レシピの工程や各種数値さえ入力すれば勝手にアイテムが完成するのだが、現実ではそうもいかない。
全ての工程を自分でイメージしながら実現しなきゃいけないのだ。
研修の中でネグントは、さまざまなアイテムを実際に作って見せてくれた。
軽く見ただけで動きを完璧にトレースできりゃ苦労はないけど、俺はそんなに器用じゃないからな……何度も何度もネグントに手本を見せてもらってメモをとりつつ、必死に動きをマネし続けていた。
――ボフンッ!
「うおッ?!」
急な小爆発が起きたのは、俺が手元で展開した
しっかり別空間で区切られているから俺自身へのダメージこそ無いものの、それなりに音は大きいし、今のところは何回見ても思わず驚いてしまう。
爆発の煙が収まった後。
「また失敗か……はぁ……」
がっくりと肩を落とす俺。
今日はずっと生産を続けているが、成功したのは2回のみ……。
……要は、
その成功も、2回とも初歩的な消費アイテムだった。
少し複雑なアイテムともなると完全にお手上げだ。
さらに武器や防具などの装備品、魔石の組み込みが複雑な魔導具は、消費アイテムよりも難易度が高いらしい。
今は試しに仕組みが比較的簡単な「明かりの魔導具――火の魔石を使った照明用魔導具――」を作ってみたが、はっきり言って全然ダメ。手ごたえというものがまるでないのだ。
生まれたばかりの“失敗作”を2本の指でつまみあげつつ、ネグントが口を開いた。
「初日かラ上手くいく訳が無いだロウ……回数さエこなせば自然と上達すルはズだかラ、まア気長に練習すルが良イ」
「はい……」
ネグントの言う通りだとは思う。
何事も、練習さえ続ければある程度は身に付くものだ。
だけど練習するにも材料がいる。
安価な材料で製作できる消費アイテムならともかく、魔導具を作るには魔石が必須。今日だって既に火の魔石を3個も無駄にしちゃったし。
魔石って1番安いランクの物でも結構な値が張るんだよなぁ……今度トヴェッテを通る機会があったら、スラニ湿原に寄ってスライムを乱獲しまくり、練習用魔石を大量ゲットしておいたほうが良さそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます