第155話「勇者のお仲間、選抜します(3)」
俺とテオは、ニルルク村の獣人たちとも相談しつつ、事前に「火山ダンジョン浄化後の宿場町での作戦パターン」をいくつか決めていた。
本日、宿場町を訪れたところ。
火山浄化が完了したのに『勇者同行者選抜大会』が中止になっておらず、かつ主催者側と話し合いの余地がありそうな状況だった。
そこで事前に考えた作戦の中から選んだのが『プランB』だ。
俺たちが、大会主催者に直接会って “勇者の意向” を伝えるというものである。
ギルド職員への接触には早い段階で成功。
15分ほど待った後、街の中心から程近い1軒家へと連れていかれた。
「ようこそ。私が冒険者ギルド・ザーリダーリ火山支部のギルドマスターを務めておるビエゴ・ワウだ。この度のご尽力、感謝申し上げる……詳しくは中で話そうか」
玄関先で出迎えてくれた初老の男性こそ、大会開催のきっかけを作り出した渦中の人物だった。体格はゲームと同様にガッチリしており、冒険者として活躍していたという現役時代を思わせる。
だがゲームでの堂々とした様子とは違い、現実ではすっかりしょぼくれているあたり、今回の騒動における彼の苦労具合が伺える。目の下にはくっきりとクマができてるし、声も疲れ切って弱弱しい……こりゃ昨夜は寝てないかもな。
すぐに案内されたビエゴ宅の客間では、既に6名の大人たちがテーブルを囲み、資料を広げてああでもないこうでもないと議論を繰り広げていた。
「皆の者、少々よいだろうか」
客間入口からビエゴが呼びかける。
ギロリとこちらを睨む一同。
「今忙しいんじゃよッ!」
「アンタだって分かるだろ」
「後にしてくれ、それどころじゃねぇんだ!」
「いや、彼らの話に耳を傾けるのが最優先だ。これは私の……つまり冒険者ギルドのマスターとしての判断である」
「はァ何言ってんだ??」
「早いとこ冒険者共をどうにかしねぇと町が大損害を被りかねない瀬戸際でッ――」
「だからこそだ! いいか、こちらのお二方は恐れ多くも
ビエゴが声を張り上げて俺たちを紹介すると、それまで眉を吊り上げて怒鳴りつけていたはずの大人たちが息を呑み一様に静まり返った。
「……のう、お前ら。本当に勇者様の代理人なのか? 緊急事態に付け込んで、まさかワシらを騙そうとしておる詐欺師か何かじゃなかろうな?」
ややあって最年長らしき老人が口を開いた。
彼はゲームと同じなら宿場町の町長だったはず。
町長の言葉にハッとしたらしい残り5人の顔にも緊張が走る。
「やだな~そんなつもりないよ!」
「俺たちはただ勇者に頼まれてきただけなんです……
笑って否定するテオと俺。
間髪いれずに【
「そ、それはッ!」
「ニルルク魔導具工房の
「はい。ちょうど今朝、工房長のネグントさんが書いてくださったばかりの紹介状ですよ」
俺から紹介状を受け取った町長は、慌てて開封し中身を確認。
全て読み終えたところで「ネグントの紹介なら間違いなはずないじゃろうから」と自分の発言を撤回し、丁寧に謝罪をしてくれた。
万が一に備えて紹介状を頼んどいて正解だったよ。時間が惜しい現在、前提の証明に無駄な議論を割きたくないからな……。
……やっぱネグントはニルルク魔導具工房の長だけあって、信用度が半端ないぜ!
**************************************
挨拶もそこそこに、俺とテオは“経緯”を話し始めた。
ただし半分事実で半分嘘だ。
勇者が火山ダンジョンの浄化を終えたこと、勇者が大会中止を希望していることとかは本当だけど、他はほとんど作り話なんだよな。「勇者の正体が俺であること」を伏せるべく、ちょこちょこと事実をぼかしたり、嘘をまぜる必要があったからさ。
このあたりはこれまでの経験をふまえて、出来る限り事実をベースにしといたし、ニルルク村の獣人たちとも丁寧に口裏を合わせておいたから、後でボロが出ることはないはずだ。
「――つまりっ! そんなこんなで俺たち2人が知り合いの付き添いでニルルク村の様子を見に行ったら、ダンジョン浄化帰りの勇者様にたまたま出会ったんだー。そんで伝言を頼まれたってわけ♪」
「なんとお二方は実際に勇者様にお会いしたのか!」
「ええ、まぁ――」
「羨ましい! 誠に羨ましすぎるゥッ!」
俺たちの説明を食い入るように聞き入ってるらしいあたり、町民たちは疑っている様子はないと思う。ていうか反応がいちいち大き過ぎるんだよね……特に鼻息が荒い町長の目が血走りすぎて「実際はここに勇者がいる」って教えたら卒倒しそうな勢いで怖い。教えないけど。
「それで実際の所、勇者様はどのような御方だったんだ?」
「髪の御色や背丈や体格などをはじめ容姿の特徴でも、好んで召し上がる物でも何でも良い! どうか教えて下され!」
「ええっと……」
打ち合わせに無かった質問に困った俺がテオを見る。
瞬間、テオは
俺の脳裏にスッと横切る
「いや~ここだけの話だけど、勇者様はやっぱりカッコよかったよー♪」
「ちょテオお前――」
「そッそんなに格好いいのかッ!」
「さすが勇者様!」
「あの伝説は誠であったのじゃな……!」
勝手に答え始めたテオを止めようとする俺だが、町民たちの勢いにかき消される。
「でもそういう
「いやいや~、俺なんて勇者様の足元にもおよばないって♪ 勇者様ご本人の希望で髪の色とかは教えてあげられないけど、この世の者と思えないぐらい美しくて、ほんとにほんとにキラキラしてて、まぶしいばかりのオーラに包まれまくってるから、たぶん誰もが会った瞬間『あれは絶対に伝説の勇者様だ!』って分かっちゃうんじゃないかなぁ♪」
「「「ひょォ~~~ッ!!」」」
テオの熱い解説に、町民たちのテンションは最高潮に達したらしい。
まだ見ぬ“勇者様”の姿を想像し、
話の輪から解放された隙に、俺はテオを客間の外に引っ張り出して小声で詰める。
「――おい、誰が“この世の者と思えないぐらい美しい”だって?」
「さぁ? 何のことかな~★」
はぐらかすテオ。
思わず溜息をつく俺。
「……とまぁ冗談はこれぐらいにして」
「ったく勘弁してくれよ。ほんと心臓に悪いから」
「何言ってんの?? タクトのためじゃんー」
「は?」
「だって
「あ……!」
笑顔のテオが指さしたのは、客間の中の盛り上がり。
町民たちが想像する勇者はいまや“輝くように美しい絶世の美青年”と化している。地味を絵に描いたみたいに存在感の薄すぎる俺とは似ても似つかない架空の存在と言えるだろう。
確かにテオの言う通り、ある意味で安全性は高まった気はするのだが……ほんのちょっとだけ複雑な気分になったのも事実である。
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